こうすれば骨は強くなるー今日からできる実践ガイドー
はじめに
骨は絶えずつくり替わり生まれ変わっています。
年齢やホルモン、生活習慣の影響でこのバランスが崩れると骨がもろくなり(骨密度が低下)、圧迫骨折などのリスクが高まります。
そしてどの世代でも、骨折後の回復には栄養が大きく関わります。
骨粗鬆症を予防したい方も、骨折からの回復を急ぎたい方も同じです。
適切な食事は骨の強さ(骨密度)の維持、骨の回復スピード、そして早い日常復帰を力強く後押ししてくれます。
今回は骨粗鬆症予防はもちろん、若中年の骨折回復も期待できる「攻める食事」についてお話します。
“攻める食事”とは? ー4つの決まり事を作りましょう(生活習慣も含みます)
1. 足す(材料を満たす)
からだが骨をつくれるように、必要な要素を毎日そろえることが第一歩です。
骨は細胞(破骨細胞・骨芽細胞・骨細胞)の働きでつくられますが、良い骨づくりには「資材」と「道具」が欠かせません。
•資材(材料):たんぱく質+カルシウム+ビタミンD
•道具(作業を進める助け):ビタミンC・マグネシウム・亜鉛・ビタミンK
どれか一つでも欠けると効率が落ちます。
まずは資材を確実に、そこに道具を少しずつ毎日重ねましょう。
2. 減らす(失わない工夫)
つくった骨を守るには、弱くなる要因を減らすことも大切です。
•減塩
•飲酒は控えめに(転倒予防にもつながります)
•カフェインは1〜2杯/日を目安に
•禁煙
こうした「引き算」で、カルシウムの流出や癒合の妨げを減らし、骨の状態を保ちやすくします。
3. 続ける(型にする)
計画を毎日の“型”に落とし込むと続きます。
•朝にたんぱく質を必ず1品(卵・ヨーグルト・納豆など)
•足りない分は間食で“ちょい足し”(チーズ・ナッツ・プルーンなど)
•外食では主菜を魚・鶏むねに、汁物は控えめに
「何を食べるか」をあらかじめ決めておくことで迷わず実行できる仕組みが出来上がります。
その仕組みが圧倒的に成果の積み上げにつながります。
4. 測る(見える化)
やったことを数字や記録で確認し、次の一歩に活かします。
•骨粗鬆症の予防が目的の場合:骨密度やビタミンDを定期チェック。
必要に応じて骨代謝マーカー(骨の作り替えの速さを示す細胞を血液検査で確認)も参考にします。
•骨折治療の場合:基本的に採血や骨密度検査は必要ないことが多いです。
①足す、②減らす、③続けるに関してメモ(食事・間食・運動・禁煙/節酒など)して行動を見える化しましょう。
※圧迫骨折の場合は積極的に骨粗鬆症加療を検討してください。
目標量と何を食べればどのくらい?
1日の目標量と、食べ物1回分で摂れる量を載せています。あくまで目安ですので、参考にしてください。
土台の3本柱(資材)
•たんぱく質:毎食 20–30 g
例)鶏むね100g=22–24g
鮭100g=20–22g
卵1個=6–7g
納豆1P=7–8g
豆腐150g=12–14g
ヨーグルト200g=8–10g
カルシウム:1日 1000–1200 mg
例)牛乳200ml=220mg
ヨーグルト100g=120mg
チーズ1枚=120–130mg
豆腐150g=120mg
しらす20g=100–130mg
小松菜70g=120mg
•ビタミンD:1日 800–1000 IU(=20–25μg)
例)鮭100g=480–800IU
さば100g=320–480IU
卵1個=40–80IU
乾燥しいたけ10g=400–600IU
“+α”で底上げ(道具)
•ビタミンC:毎食どれか1品
例)キウイ1個=70mg
赤パプリカ1/2=80mg
ブロッコリー70g=60mg
•マグネシウム:毎日少しずつ
例)アーモンド25g=60–70mg
玄米150g=60mg
納豆1P=40–50mg
•亜鉛:毎日少しずつ
例)牛もも100g=3–5mg
かき100g=10–13mg
納豆1P=1.5mg
•ビタミンK:毎日少しずつ
例)納豆1P=300μg超
ほうれん草70g=180μg
例えばこんな感じで取り入れてみてください
•朝:ヨーグルト200g+卵1個+キウイ1個+牛乳200ml
•昼:鮭100g、玄米150g、小松菜おひたし、豆腐みそ汁
•間:プルーン50g、アーモンド25g、スライスチーズ1枚
•夜:鶏むね150g、しらす20g、ブロッコリー、乾しいたけ入り炒め物
これで タンパク質 80–100g、カルシウム 1000mg、ビタミンD 800–1000IU が摂取可能です。
吸収をよくする摂り方
同じ量でも、摂り方次第で“身につき方”は変わります。
カルシウムは分けて、ビタミンDは脂と、たんぱく質は毎食摂るなど――小さなコツを押さえるだけで、骨にしっかり届きます。
カルシウム
•分けて食べる:
一度にドカッとではなく、300–500mgを1日2〜3回。
•できればビタミンDと一緒に摂取:
ビタミンDが吸収を助けます。
•調理の仕方にも注意:
ほうれん草はゆでて水にさらす。豆は発酵食品(納豆・味噌)や浸水させる。など調理方法によっても吸収率は変動します。
•サプリは摂取タイミングに注意:
炭酸カルシウムは食後に。クエン酸カルシウムはいつでもOK。どちらも分一度に摂りすぎない。
ビタミンD
•脂と一緒に:
ビタミンDは脂に乗る(溶ける)と吸収率が上がります。魚をオリーブ油で焼く+卵など。
•きのこは日向ぼっこさせる:
生きのこは窓辺に10〜30分置いてから調理するとビタミンDが増えます。乾燥しいたけ最強です。
•自分自身も日光浴を:
体内では日光を浴びることでビタミンDが合成されます。
季節や天気に左右されますが、出来るだけ日に当たるようにしましょう。
論文的には腕・脚に5〜30分を週2回以上(10〜15時が理想)が目安だそうです。
たんぱく質
•毎食摂る:
出来るだけ朝・昼・夜の3回から摂取しましょう。
•ビタミンCを添える:
骨の芯(コラーゲン)づくりにとても重要です。
ビタミンC、マグネシウム・亜鉛・ビタミンK
•“ちょい足し”で毎日:
ナッツひと握り/納豆1P/海藻少し/青菜おひたしのどれかを毎日。
•サプリは時間をずらす:
鉄・亜鉛・Caは同時に飲まない(2時間あける)。
骨折後・早期復帰のポイント(世代を問わず)
骨折後の骨癒合(骨がくっつく)までには3つの期間(正確には4つですが簡略化しました)があります。
それぞれの期間を短くできればそれだけ骨癒合は早く完了します。
特に炎症期を短くすることが重要と言われています。
•炎症期(骨折〜1週):
回復のためにとにかくエネルギー不足を作らない(体重×30–35kcal/日)。
またこの時期は運動量が低下することで便秘がちになります。水分・食物繊維で便秘対策をしましょう。
•修復期(2〜6週):
タンパク質量を1.4–1.6 g/kg/日へ。
もちろん分割での摂取が理想です。
さらにカルシウム、ビタミンD、ビタミンCも欠かさないように。
•リモデリング期(〜数か月):
タンパク質 1.2–1.4 g/kg/日で維持しましょう。
その後適切なリハビリをすることで骨に刺激を与え骨の回復を促すことができます。
※喫煙に関しては骨への血流を著しく低下させるので、喫煙している方は禁煙するだけでも骨の回復を大きく促すことができます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 乳製品が苦手です。
A. 納豆・豆腐・小魚・強化豆乳などで十分代替可能です。
それでも取り入れるのが難しい場合はCaサプリを分割投与で補いましょう。
Q2. サプリどんなものから飲めばいいですか?
A. 何よりも食が先と考えてください。食事での摂取が難しい場合はまずタンパク質、カルシウム、ビタミンDの不足分をプロテインやサプリなどで補うようにしましょう。
最近では女性ホルモンに似た成分のエクオールも注目されています。
Q3. コーヒーはやめるべき?
A.よくカフェインは一切摂取しないようにと勘違いされる方がいますが、カフェインを控える理由はカフェイン摂取による利尿作用などで体内のカルシウムが排出されてしまうからです。
ですので、カフェイン摂取を1–2杯/日程度にし、十分にカルシウムを摂取できるのであれば多くは問題ないと考えます。
しかし糖分の摂り過ぎに注意してくださいね。
Q4.骨折後に禁煙しても意味はありますか?
A.禁煙は非常に有効です。
いろんな研究結果からも喫煙されている方は骨が治りにくいということが証明されています。
また、手術をする場合は感染や傷のトラブルの発生頻度が上昇することも証明されています。
数週間の禁煙でも十分に効果があるので禁煙を強くお勧めします。
Q5. 減量中ですが同時にできますか?
A. 理論のないただ食べないで行う食事制限はNGですが、しっかり計画すれば減量中でも可能です。
①骨粗鬆症の方:骨と筋を守る食事設定なら減量は可能です。
骨を守るため攻めの食事をしっかり続けながら、焦らず減量しましょう。
②骨折後の方:受傷後1週間は骨折治療を最優先にしてください(炎症期を短く済ませたいからです)。
その後は責めの食事をしながら摂取カロリーを減らしてもいいと思いますが、運動力が減るので減量するためには普段以上の摂取カロリーを控える必要があります。あくまでも減量より太らないことを念頭においてもらうことがベストだと思います。
どちらも“速さより質”を重視してください。 しっかり計画し継続できれば最高の結果が必ずついてきます。
まとめ
「攻める食事」= 足し算 × 引き算 × 継続 × 見える化。
•足し算:
たんぱく質・カルシウム・ビタミンDを土台に、C・Mg・Zn・Kを“毎日少しずつ”。
•引き算:
塩分を控え、飲酒は適量、カフェインは1–2杯/日に。
•継続:
朝にたんぱく質を入れる/間食で不足をちょい足し—など、毎日の型として落とし込む。
•見える化:
骨密度やビタミンD、簡単な食事・行動記録を確認できるようにし、体格・生活・競技・治療に合わせて調整。
これで予防(起こさない)・再発防止(くり返さない)・機能維持(守る)を同時に行えます。
専門医からの一言

食事は薬やリハビリの効き目を静かに底上げします。
迷ったときは、まず“たんぱく質・カルシウム・ビタミンD”の3本柱を整えましょう。
骨粗鬆症治療では骨密度検査や採血で今の状態を見える化も検討してください。
骨折治療では、十分なエネルギー摂取と高たんぱくを意識して、喫煙や多量の飲酒歴があればきっぱりやめることが回復への近道です。
どんな場合でも大切なのは「あなたが無理なく続けられる形」に落とし込むこと。
お仕事や競技、持病や内服に合わせて、続けやすい食事と運動の設計を一緒につくっていきましょう。
焦らなくて大丈夫。小さな一歩をしっかり重ねた人に骨は確実に応えてくれます。
参考文献
- Rizzoli R, et al. Nutrition and Osteoporosis Prevention. Nutrients. 2024.
- Weaver AA, et al. Effect of Dietary Protein Intake on Bone Mineral Density in Older Adults. Nutrients. 2021.
- IOF Position—Vitamin D recommendations for older adults.
- König D, et al. Specific Collagen Peptides Improve BMD in Postmenopausal Women: RCT. Nutrients. 2018.
- De Souza MJ, et al. Prunes preserve hip bone mineral density in a 12-month RCT. Am J Clin Nutr. 2022.






