「手首の小指側が痛む…これは何?」
- 手首をひねると痛みが走る
- ドアノブを回す、瓶のフタを開ける動作がつらい
- スポーツ(テニス、ゴルフなど)をした後に痛みが出る
- 痛みが続くと、手を使うのが苦痛になる
このような症状がある場合、ECU腱鞘炎(尺側手根伸筋腱鞘炎・しゃくそくしゅこんしんきんけんしょうえん)の可能性があります。
この疾患は、手首の小指側にある「尺側手根伸筋(ECU:Extensor Carpi Ulnaris)」という腱と、それを包む腱鞘が炎症を起こすことで生じる病気です。
特に、手首をひねる動作や繰り返しの負荷がかかるスポーツ(テニス、ゴルフ、野球など)や作業をする人に多く発症します。
放置すると症状が悪化し、手を動かすたびに痛みが増し、力が入りにくくなることもあるため、早めの治療が大切です。
ECU腱鞘炎とは?
手の甲側には、指や手首を伸ばすための「伸筋腱」がいくつも走っています。これらの腱は、手首周辺の骨の上を通る際に「伸筋支帯」と呼ばれる丈夫なバンドの下を通過します。
この支帯は腱を押さえる“トンネル”のような役割を果たし、腱が浮き上がったりずれたりしないようにしています。

ECU腱鞘炎は、手首の小指側にある「尺側手根伸筋(ECU)」と、それを包む腱鞘に炎症が起こることで、痛みや動かしにくさが生じる疾患です。
ECU腱は、手首を安定させる役割を持っており、特に手首をひねる・外側に傾ける(尺屈)・強く握るといった動作をサポートしています。
しかし、この腱に負荷がかかりすぎると、炎症が起こり、痛みや動かしにくさが出てくるのです。

なぜECU腱鞘炎が起こるのか?
1. 手首の使いすぎ
- テニスやゴルフなど、手首をひねる動作が多いスポーツ
- 繰り返しの負荷がかかる作業(工場作業、荷物の持ち運び、料理など)
- 長時間のキーボード作業やスマホ操作
手首を酷使することで、腱と腱鞘が摩擦を受け、炎症が生じやすくなります。
特にスポーツでは、インパクトの瞬間に強い力が加わるため、腱鞘に負担がかかりやすいとされています。
2. 手首の不安定性や負担の蓄積
- 過去に手首を痛めた経験がある
- スポーツなどで無理な負荷をかけ続けている
ECU腱は、通常手首の動きを支えていますが、過去に手首を捻挫したり、スポーツで繰り返し負荷をかけたりすると、腱の安定性が低下し、炎症を起こしやすくなります。
ECU腱鞘炎の検査
1. 画像検査
骨折や変形を除外する目的でレントゲンを撮影し、骨に異常がないかを確認します。
超音波検査でECU腱の炎症の程度や、腱の位置異常があるかどうかを評価します。
2. 身体診察
手首の小指側を押して痛みの有無を確認します。
ECU腱に負荷をかける徒手検査(ECUテスト)を行い、症状が再現されるか確認します。
手首の安定性をチェックし、腱が正常な位置にあるかを評価します。
ECU腱鞘炎の治療
1. 保存療法(手術をしない場合)
痛みが強い場合は、まず炎症を抑えるために消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用します。
飲み薬だけでなく、湿布や塗り薬を併用することで、局所的に炎症を抑えることができます。強い炎症がある場合には、腱鞘内にステロイド注射を行うこともあります。注射を行うことで即効的に炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
しかしステロイドの注射は腱そのものに注射すると腱自体の変性や損傷を引き起こすという報告があり、繰り返し使用することはお勧めできません。
そのため、当院ではむやみやたらに注射をしません。超音波を用いて患者さん一人一人の状態をしっかり確認し、最も必要な部位に必要なタイミングで的確に注射することを心がけています!
人によっては注射による疼痛軽減が見られることも多く、頻回の注射を希望される場合もあります。その場合はプロロセラピーという方法を選択します。
この治療法では、1~2週間ごとに注射を行い、腱を損傷させることなく治療を継続することが可能です。施術時には若干の疼痛を伴いますが、組織の修復を促し、長期的な改善を目指します。
2. 手首や肘を安静にし、負担を減らす
炎症を起こしている間は、なるべく手を使う動作を減らし、患部の負担を軽減することが重要です。
- サポーターを装着し、手関節への負荷を分散させる
- 仕事やスポーツの負担を調整し、痛みがある動作を避ける
- 重いものを持つときは、手首をなるべく使わないようにする
注射やお薬に抵抗がある方は、日常生活の中でいかに負担をかけないようにするかが重要です。
3. 手術療法(重症例)
保存療法で改善しない場合や、症状が進行して手を使えなくなった場合には、腱鞘切開手術を行い、腱の通り道を広げることで、スムーズに指を動かせるようにします。
専門医からの一言


ECU腱鞘炎は、初期の段階で適切な治療をすれば悪化を防ぐことができます。
「少し痛いけど、我慢すれば大丈夫」と放置していると、炎症が慢性化し、日常生活の中で手首を使うたびに痛みを感じるようになることがあります。
特に、手をよく使う仕事やスポーツをしている方は、無理をせず、早めに医師に相談することが大切です。
参考文献
- Sanmartín-Fernández M, Couceiro-Otero J, Costas-Álvarez M, et al. Extensor Carpi Ulnaris Tenosynovitis Caused by the Tip of an Oversized Ulnar Styloid: A Case Report. J Wrist Surg. 2015;4(1):68–72.
- Zarro M, Goel R, Bickhart N, et al. Extensor Carpi Ulnaris Tendinopathy in Athletes: A Review of the Conservative and Rehabilitative Options. Hand (N Y). 2024;19(3):407–413.
- Kudo T, Ikumi A, Yoshii Y, et al. Extensor Carpi Ulnaris Tendinopathy Following Conservative Treatment of a Distal Ulnar Metaphyseal Fracture: A Case Report. Cureus. 2024;16(10):e71027.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)