交通事故にあったら——その痛み、放っておいてはいけません。整形外科での診断と治療が大切です。

まずは事故に遭われたあなたへ——

突然の交通事故に遭われ、不安や緊張の中で日々を過ごされていることと思います。

痛みがあったり、体に違和感があると「このまま大丈夫なのかな」と心配になりますよね。きっととても驚かれたと思います。本当に大変でしたね。まずは、事故という予期せぬ出来事を乗り越えたご自身を労ってあげてください。

その上で、痛みや違和感をそのままにせず、今できるケアをしっかり受けていくことが大切です。わたしたちは、「痛みを残さず笑顔にすごす」ために、一人ひとりの症状に寄り添った診療を大切にしています。

交通事故直後、こんな症状はありませんか?

  • 首が痛くて動かしにくい
  • 腰が重だるく、動くたびに痛い
  • 背中や肋骨に違和感がある
  • 打った覚えはないのにお腹や胸が痛む
  • 手足にしびれが出てきた

事故直後は「大丈夫です」と思っていても、数時間~数日たってから症状が出てくることがよくあります。なかには、自分でも気づかないうちに損傷を受けている部位があることもあります。

そのため、交通事故後は少しでも違和感があれば、整形外科でしっかりと診察・検査を受けることが何よりも重要です。

交通事故で起こりやすい外傷とは?

交通事故では、さまざまな衝撃が全身に加わるため、以下のような外傷が多く見られます。

1 外傷性頚部症候群(いわゆる「むちうち」)

首に急な前後方向の力が加わることで、頚部の筋肉・靭帯・関節包が損傷を受ける状態です(詳細は「外傷性頚部症候群」をご覧ください)。

  • 首や肩の痛み・動かしにくさ
  • 頭痛、めまい、吐き気
  • 上肢のしびれ・だるさ

などの症状が出ることがあります。数日後に症状が強くなるケースも多く、注意が必要です。

2 腰部打撲・腰椎捻挫(腰痛)

車の座席で衝撃を受けると、腰や骨盤に負担がかかり、腰部に打撲や捻挫が起こることがあります。

  • 腰や背中の痛み
  • 起き上がる・座る動作での強い痛み
  • 時間がたっても改善しない違和感

日常生活にも支障が出やすく、慢性化する前に治療を始めることが大切です。

3 シートベルト損傷(胸部・腹部)

シートベルトによって体が守られる反面、胸やお腹にベルトの圧がかかり、打撲や筋肉・内臓への影響が出ることもあります。

  • 肋骨骨折、胸部打撲、腹筋の肉離れ
  • 肋間神経痛のような痛み
  • 内臓へのダメージ(まれに肝臓や脾臓など)

「胸が締めつけられるように痛む」「咳やくしゃみで痛い」などの症状は、見逃してはいけないサインです。

交通事故後に整形外科での診断がなぜ必要なのか?

交通事故に遭った後、「なんとなく身体が痛い」「軽いむち打ちだと思う」といった感覚で、整形外科を受診せずにマッサージや温熱療法だけを受けている方が少なくありません。

しかし、事故による身体へのダメージは、見た目にはわかりづらい損傷や、しばらくしてから痛みが強くなるものも多く、整形外科での正確な診断と専門的な評価が非常に重要になります。

整形外科を受診することのメリット

正確な診断と画像評価

交通事故では、筋肉や靭帯の損傷、骨の微細な骨折、神経の圧迫など、症状の原因がさまざまです。

整形外科では、レントゲン・超音波・MRIなどを適切に組み合わせ、どこにどんな損傷があるかを詳細に評価します。

これは痛みの原因を明らかにするだけでなく、後遺症を残さないために的確な治療を行うための出発点になります。

医師による「診断書」の作成

自賠責保険で治療を継続するには、医師の診断書が必要不可欠です。あくまで「医師の診断に基づいた治療」であることが、保険適用の前提条件です。

整形外科を受診せず、接骨院や整体だけで治療を続けている場合、後から保険会社に「適切な医療行為ではない」と判断されてしまい、治療費の打ち切りや後遺障害の申請が不利になる可能性があります。

痛みに合わせた治療とリハビリの提供

痛みの出ている場所に対して、牽引・温熱・電気治療・ストレッチ指導などの物理療法やリハビリを、医師の指示のもと行います。

また、当院では超音波を用いた筋膜リリースや、神経ブロック注射などの選択肢も取り入れており、症状や回復スピードに応じて最適な治療を選択しています。

薬物療法・注射療法を含めたトータルケア

痛みや炎症が強い場合には、消炎鎮痛剤や湿布、必要に応じて神経ブロック注射などを組み合わせた総合的な治療が有効です。

単なるマッサージや温めでは届かない深部の炎症や神経の刺激に対して、医学的根拠に基づいた処置を行うことが、長引く痛みの予防や早期回復に直結します。

保険上でも「整形外科での診断」がとても重要です

  • 診断書がなければ保険会社に治療費の請求ができない
  • 整形外科での定期的な経過観察がないと、治療の継続を打ち切られることがある
  • 後遺障害等級の申請には、医師の記録や検査結果が必要不可欠

交通事故後は、早めに整形外科を受診し、正確な診断と記録の積み重ねをしておくことが、ご自身の体を守るだけでなく、将来のトラブルを防ぐ一番の方法です。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

交通事故のあと、「ちょっと痛いけど大丈夫かな」と思ってそのままにしてしまう方、本当に多いです。でも実は、あとから痛みがひどくなったり、長引く不調につながることも珍しくありません。

整形外科では、ただ痛みを取るだけじゃなくて、「どこがどんなふうに傷んでいるか」をきちんと見極めて、リハビリや薬、必要な治療を組み合わせて対応していきます。

そしてそれは、ご自身の身体を守るだけじゃなく、保険の手続きや後遺障害への備えにもすごく大切なんです。

「ちょっと痛いけど大丈夫かな」「時間がたてば治るだろう」――そんな時こそ、”何もないことを確認するために”受診することを強くお勧めします。

しっかり診察を受けることで、「やっぱり大丈夫だった」と安心できたり、もし何かあっても早めに対応できれば、回復もずっとスムーズです。

私たちは、事故後の不安や痛みに寄り添いながら、痛みを軽減し笑顔で生活できるよう全力でサポートします。一緒にしっかり治していきましょう。

参考文献

  • Matsumoto M, Fujimura Y, Suzuki N, et al. Pathology and Treatment of Traumatic Cervical Spine Syndrome. Adv Orthop. 2018
  • 坂井 文彦. 交通事故によるいわゆる“むち打ち損傷”の病態と治療. JA共済総合研究所. 2014;
  • Hauser RA, Woldin BA. The Role of Prolotherapy in the Treatment of Chronic Whiplash Injury. J Prolotherapy.2011;3(2):543–549.
  • Haagsma JA, Graetz N, Bolliger I, et al. The global burden of road traffic injuries: an analysis from the Global Burden of Disease Study 2010. Inj Prev. 2016;22(1):51–56.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)