「親指の付け根がズキズキ痛む…これは何?」
- 親指の付け根が痛み、つまむ動作がつらい
- ペットボトルのフタを開けるときに痛みが走る
- 雑巾を絞る、スマホを持つなどの日常動作で痛みが増す
- 進行すると、親指の付け根が膨らんで変形してきたように見える
このような症状がある場合、母指CM関節症(ぼしCMかんせつしょう)の可能性があります。この疾患は、親指の付け根にある「CM関節(母指中手手根関節)」の軟骨がすり減り、炎症を起こすことで痛みが生じる病気です。
特に、手をよく使う人や50歳以上の女性に多くみられる疾患で、進行すると親指の動きに制限が出てくることもあります。
初期のうちは、親指を動かしたときの軽い痛みや違和感程度ですが、放置すると関節の変形が進み、親指の力が入りにくくなったり、物をつかむのが難しくなったりすることがあります。
指の関節に起こる変形性関節症
関節には、骨と骨の間でクッションの役割を果たす「軟骨」が存在し、スムーズに動くようになっています。

しかし、長年の使用や加齢によって軟骨がすり減ると、関節の表面が傷つき、炎症が起こります。
この炎症が続くと、関節内にある滑膜という膜が腫れたり、トゲのような骨の変形(骨棘)ができたりして、関節の変形が進行していきます。
関節の大きさによってはたくさんの関節水腫が溜まることもあります。

母指CM関節症とは?
親指の付け根にあるCM関節は、親指を自由に動かすためにとても重要な関節です。
この関節は、「鞍関節(あんかんせつ)」という特殊な形状をしており、
- つまむ動作(つまんで紙をめくる、ボタンを留める)
- 握る動作(ペンを握る、スマホを持つ)
- ねじる動作(ドアノブを回す、ペットボトルのフタを開ける)
など、さまざまな方向に動くことができます。
しかし、このCM関節は日常生活で負担がかかりやすく、加齢や過度な使用によって軟骨がすり減ると、炎症が起こり、痛みや変形を引き起こします。

- 初期は軽い痛みや違和感のみ
- 進行すると、親指の動きに制限が出たり、関節が変形して膨らんでくる
- さらに悪化すると、物をつかむ力が低下し、日常生活にも支障をきたす
なぜ母指CM関節症が起こるのか?
1. 加齢やホルモンバランスの変化
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは関節を守る重要なホルモンと言われています。
エストロゲンの働きには以下のようなものがあります。
滑膜(関節の内側を覆う膜)の炎症を抑える
関節内には「滑膜」という組織があり、ここで関節液を分泌して関節の動きを滑らかに保っています。
エストロゲンは滑膜の炎症を抑える作用があり、関節や腱の腫れや痛みを予防しています。
軟骨を保護し、関節軟骨がすり減るのを防ぐ
エストロゲンは関節の軟骨細胞を守り、軟骨のすり減りを抑える働きがあります。
コラーゲンや骨密度の維持
関節周囲の靭帯や軟骨の主成分であるコラーゲンの生成を助け、骨の代謝で重要な破骨細胞の作用を抑えることで骨密度を維持する働きもあります。
母指CM関節症は特に40〜50代以降の女性に多いのが特徴です。女性ホルモンの影響と加齢による関節軟骨への負担により軟骨がすり減ると言われています。
2. 手の酷使
- 家事や仕事で手をよく使う人に多い
- スマホやパソコンの操作が長時間続くと負担が増す
親指の関節は、日常的に頻繁に使われるため、負担が蓄積しやすい部位です。特に、手作業が多い仕事や家事、スマホやパソコンを長時間使う人は、関節に負担がかかりやすいとされています。
3. 過去のケガや関節のゆるみ
- 過去に親指の関節を捻挫したことがある
- 関節がもともとゆるい(関節弛緩性が高い)
関節が不安定な状態が続くと、軟骨の摩耗が進みやすく、CM関節症を引き起こすリスクが高くなります。
母指CM関節症の検査
1. 画像検査
レントゲン(X線)を撮影し、関節の変形や軟骨のすり減りを確認します。
2. 身体診察(徒手検査)
- 親指の付け根を押して痛みがあるか確認します
- 親指をひねるテスト(グラインドテスト)を行い、関節に負担をかけたときの痛みをチェックします
- 関節の動きが正常かどうか、親指の可動域を評価します
母指CM関節症の治療
1. 安静や内服での保存療法
軽症の場合は、まず保存療法を試します。親指に負担をかけないように、CM関節専用のサポーターや装具を使用し安静を保ちます。
痛みが強いときは、消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服や湿布などを使用して炎症を抑えます。エストロゲンと同じような作用を持つエクオールを使用し進行の予防が期待できます。
固定ばかりしていては指の動きが悪くなる恐れがあるので、疼痛に合わせてリハビリやストレッチで関節の運動を促し、筋力を維持します。
痛みがある場合は親指を無理に使い続けると炎症が悪化するため、できるだけ負担を減らすことが重要です!
2. ステロイド注射(炎症が強い場合)
痛みや炎症が強くお薬を使用しても痛みが落ち着かない場合は関節内にステロイド注射を行います。注射を行うことで即効的に炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
指の関節は狭く注射しにくい部分ですが、当院では超音波を用いて患者さん一人一人の状態をしっかり確認し、最も必要な部位に必要なタイミングで的確に注射することを心がけています!
3. 手術療法(重症例)
進行したCM関節症では、関節の変形が進んでしまうため、手術が必要になることがあります。関節形成術という、関節の安定性を回復させる手術方法があります。
痛みは改善しますが、関節の動きが制限される術式もあるため、術前には痛みの程度や生活での困り具合をしっかり伺い、必要な場合は手術を進めさせていただきます。
専門医からの一言


母指CM関節症は、早期の段階で適切な対策をすれば、症状の進行を遅らせることができます。
「親指が少し痛いけど、大丈夫かな?」と放置していると、関節の変形が進み、日常の動作が難しくなることもあるため、注意が必要です。
特に、手をよく使う仕事や趣味がある方は、負担を減らす工夫をすることが大切です。違和感や痛みを感じたら、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることをおすすめします!
参考文献
- Karanasios S, Mertyri D, Karydis F, Gioftsos G. Exercise-Based Interventions Are Effective in the Management of Patients with Thumb Carpometacarpal Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomised Controlled Trials. Healthcare. 2024;12(8):823.
- Esteban Lopez LMJ, et al. Long-Term Outcomes of Nonsurgical Treatment of Thumb Carpometacarpal Osteoarthritis. J Bone Joint Surg Am.2023;105(22):e112.
- Pace V, Bronzini F, Novello G, Mosillo G. Surgical Management of Thumb Carpometacarpal Osteoarthritis. JSES Int. 2025;9(1):15–21.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)