ベーカー嚢腫とは?—「膝の裏が腫れている、違和感がある…」それ、関節の水がたまっているのかもしれません

「膝の裏にふくらみができた、なんだか違和感がある…」こんな症状、ありませんか?

  • 膝の裏側にやわらかい膨らみがある
  • 正座をすると違和感がある、膝が突っ張る
  • 歩いたりしゃがんだりすると膝の裏が痛む

このような症状がある場合、ベーカー嚢腫(ベーかーのうしゅ)の可能性があります。

特に中高年の方や、膝に持病(変形性膝関節症や半月板損傷など)がある方に多い病気です。

ベーカー嚢腫とは?

ベーカー嚢腫は、膝関節の後ろ(膝窩部)にできる液体がたまった袋(嚢腫)のことです。

関節には「関節液(滑液)」という潤滑油の役割をする液体があります。これが何らかの理由で過剰に分泌されると、「膝に水が溜まった」という状態になります。

膝の周りには「滑液包」という呼ばれる筋肉や関節の動きをスムーズにするクッションのような袋があります。

この袋の中にも関節液(滑液)が含まれており、膝裏にある滑液包に水にたまってしまう状態を、「ベーカー嚢腫」と呼びます。


特に変形性膝関節症や半月板損傷など、膝の関節に炎症があると、関節液が増えてベーカー嚢腫ができやすくなることがわかっています。

「膝の裏に水がたまっている感じがする」「動かすと違和感がある」といった症状があれば、一度チェックしてみましょう。

なぜ起こるの?

ベーカー嚢腫は、単独で発生することはほとんどなく、膝の関節に炎症や異常があることで二次的に発生することがほとんどです。

主な原因となる膝の病気

  • 変形性膝関節症(加齢による軟骨の摩耗)
  • 半月板損傷(スポーツや加齢による膝の軟骨の損傷)
  • 関節リウマチ(自己免疫による関節の炎症)
  • 膝のケガ(靭帯損傷、骨折など)





いずれのような膝関節の病気があると関節内に炎症が起きやすく、その結果関節液が増えて、膝の裏側の滑液方に溜まることでベーカー嚢腫ができてしまいます。

どんな症状が出るの?

  • 膝の裏に腫れや膨らみがある(柔らかいしこり)
  • 正座やしゃがむ動作で違和感や圧迫感を感じる
  • 膝を完全に伸ばしたり曲げたりすると痛んだり違和感を感じる
  • 歩行時や階段の昇降で膝の裏側に痛みを感じる
  • 腫れが大きくなったり小さくなったり変化することがある

通常、ベーカー嚢腫自体は大きな問題を引き起こすことはありません。しかし、嚢腫が大きくなると、周囲の血管や神経を圧迫したり、膝の動きを妨げることで、痛みや違和感が生じることがあります。

ベーカー嚢腫の検査

1. 身体診察

膝の裏側を触診し、腫れの大きさや柔らかさ、圧迫すると大きさが変化するかを確認します。

2. 画像検査

超音波にて膝裏の嚢腫の大きさや内部の状態確認します。また同時に膝関節の状態や関節内の水腫の有無を確認できます。

また、レントゲンにてベーカー嚢腫の原因になるような変形性膝関節症や骨の異常があるかを確認します。

膝関節の炎症や半月板損傷などの有無をより詳しく評価する必要がある場合はMRI検査を検討します。 

ベーカー嚢腫の治療

・保存療法

ベーカー嚢腫は基本的に保存療法を行います。水が溜まったことによる圧迫感や違和感は、関節穿刺(注射で水を抜く)を行うことで改善します。

ただし、変形性膝関節症や半月板損傷などの原因疾患がある場合、根本的な治療を行わない限り、再発することが非常に多いです。

膝の炎症が落ち着くと、ベーカー嚢腫も自然に縮小することが報告されており、原因疾患に対する適切な治療が何より重要です。

変形性膝関節症や半月板損傷などに対してはリハビリや筋力トレーニングによって大腿四頭筋を強化し、膝への負担を軽減することが有効です。

膝関節に痛みや炎症が強い場合は痛み止めや関節内ヒアルロン酸注射を使用することもあります。

手術療法(保存療法で改善しない場合)

保存治療でも嚢腫が再発し続ける、嚢腫の影響で膝周囲の疼痛が強いなどの場合には手術療法を考慮することもあります。

その場合、嚢腫を摘出することになるのですが、膝の裏には大きな血管や神経が多く存在しており、手術適応に関しては慎重に検討する必要があります。

嚢腫の再発原因となる膝関節疾患(変形性膝関節症や半月板損傷など)が手術適応であれば、それに対して手術加療を行うことで嚢腫の再発を予防できる可能性もあります。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

「膝の裏の腫れが気になるけど、痛みがないから様子を見ている…」という方も多くおられますが、その腫れ、膝の関節のトラブルのサインかもしれません。

ベーカー嚢腫は良性の病変ですが、膝関節の炎症や変形性関節症が進行している可能性もあるため、早めの診察が大切です。

特に、嚢腫が大きくなったり痛みが続いたりする場合、知らないうちに関節の状態が悪化していることもあります。放置せず、一度しっかりと確認することをおすすめします。

当院では、レントゲンや超音波検査を用いて水腫や原因疾患の状態をリアルタイムに評価し、必要に応じて適切な治療をご提案しています。

膝の違和感が気になる方は、痛みがないからとそのままにせず、ぜひ一度ご相談ください。

参考文献

  • 日本整形外科学会. 変形性膝関節症 診療ガイドライン 2020
  • Tagliafico A, Michaud J, Perez MM, et al. Baker’s cyst: pathophysiology, imaging findings, and management. Eur Radiol. 2022;32(8):5201–5212. 
  • Hussein R, Driban JB, Price LL, et al. Baker’s cysts and their association with knee osteoarthritis severity and symptoms. Osteoarthritis Cartilage. 2021;29(11):1432–1440.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)