「最近ボールを投げると肘が痛い」「ピッチャーをやると痛くて最後まで投げられない」そんなお子さん、いませんか?
野球肘(やきゅうひじ)とは、野球の投球動作を繰り返すことで肘に負担がかかり、痛みや障害が起こる状態を指します。
特に成長期の小中学生(10〜14歳頃)に多く見られ、早期に対応すれば自然に改善することもありますが、放置してしまうと将来的に投球ができなくなる可能性もあるため、早期発見と予防がとても大切です。
野球肘には3つのタイプがあります
野球肘は大きく分けて、以下の3つのタイプがあります。
投球フォームのどのタイミングで、どの部位にストレスがかかっているかによって、障害の出る場所が異なります。
1. 内側型野球肘(ないそくがた)
肘の内側が痛い、投げるとピリッと痛む
内側型は最もよく見られるタイプで、特にピッチャーやキャッチャーに多く発症します。
ボールを投げるとき、肘を大きく引いてからリリースするまでの間、内側の靭帯や骨に強い引っ張る力(牽引力)が加わります。
主な原因と障害部位
- 上腕骨内側上顆(肘の内側の出っ張り)に繰り返し牽引力がかかる
- 成長期の子どもではこの部位に骨端線(成長軟骨)があるため、剥離骨折を起こすことがあります
- 靭帯(内側側副靭帯)や腱にも炎症が起こることがあります
よくある症状
- 投球中または後に肘の内側がズキッと痛む
- 投球後にだるさや違和感が続く
- 痛みで肘がまっすぐ伸びにくくなることもある
2. 外側型野球肘(がいそくがた)
肘の外側が痛い、引っかかるような感じがある
外側型は比較的まれですが、進行すると注意が必要なタイプです。
投球時、特にボールをリリースする瞬間に、肘の外側に骨同士がぶつかる「圧迫力(圧縮ストレス)」がかかります。
主な原因と障害部位
- 上腕骨小頭(肘の外側の骨)と橈骨頭が繰り返しぶつかることで、骨の軟骨や関節表面に損傷(離断性骨軟骨炎)が起こることがあります
- 症状が進むと、関節内に骨や軟骨のかけら(遊離体=関節ねずみ)ができることもあります
よくある症状
- 投球時や投球後に肘の外側に鈍い痛みがある
- 肘の曲げ伸ばしで引っかかる感覚が出たり、可動域が制限されることがある
- 重症になると肘が動かなくなる・手術が必要になることも
3. 後方型野球肘(こうほうがた)
肘の後ろが痛い、伸ばしきれない
後方型は、ボールをリリースしてから腕を振り切る動作(フォロースルー)で、肘の後ろ側がぶつかる衝撃(インピンジメント)によって起こります。
主な原因と障害部位
- 投球時に肘が反りすぎる(過伸展)ことで、肘の後ろの骨同士が衝突
- 肘頭(肘の先端)と上腕骨の間に炎症や骨棘(とげ)ができることもあります
- 繰り返すうちに、肘の後ろ側に痛みや可動域制限が生じる
よくある症状
- 肘を伸ばしきると痛い・違和感がある
- フォロースルーのときにズキンと痛む
- 重度になると、骨棘(こつきょく)ができて動きが悪くなることも
検査と診断の流れ
当院では、野球肘が疑われる場合、次のような手順で診察を行います。
1. 問診・身体診察
- どの動作で痛みが出るか、どの部位が痛いかを確認します
- 圧痛(押して痛む場所)や肘の可動域、靭帯の緊張度を評価します
2. 画像検査
- レントゲン(X線)で骨の剥離や変形、骨棘を確認
- 超音波検査(エコー)で、成長軟骨の損傷や腱・靭帯の炎症をリアルタイムで観察
- 必要に応じて、MRIで軟骨や関節内部の状態を詳しく評価することもあります
治療と対応
野球肘は、初期段階であれば保存的治療(手術をしない治療)で十分改善が期待できます。
ただし、痛みを我慢して投げ続けると、状態が悪化し手術が必要になることもあるため、適切な対応が大切です。
保存療法(初期~中等度の症状)
- 投球・練習の休止(まずは安静に)
- アイシングや鎮痛薬の使用(炎症を抑える)
- リハビリ・ストレッチ指導(肩・肘・体幹・股関節などの柔軟性やフォーム改善)
- 超音波ガイド下でのハイドロリリースなどの注射療法を行うこともあります
手術療法(進行した場合や骨片がある場合)
- 離断性骨軟骨炎の剥離や関節ねずみの摘出手術
- 靭帯損傷に対する再建術
- ※手術後は数ヶ月のリハビリが必要です
予防のポイント
- 投球数や練習時間を制限する(日本整形外科学会の投球制限ガイドラインあり)
- 柔軟性や体幹の筋力トレーニングを行う
- 成長期のお子さんには年1回程度の肘のチェックもおすすめです
- 痛みが出たら、すぐに練習を中止し医療機関を受診しましょう
専門医からの一言


野球肘は、早く気づいてしっかり治療すれば、元のように野球を楽しむことができる疾患です。
ですが、「ちょっと痛いけど頑張ろう」「休んだら試合に出られないかも」と思って無理をすると、将来にわたって投球ができなくなってしまうこともあるため注意が必要です。
当院では、超音波検査を活用しながら、お子さんの成長に合わせた丁寧な評価と治療を行っています。
保護者の方とも相談しながら、「野球を続けながら痛みを改善する」方法を一緒に考えていきますので、不安なことがあればいつでもご相談くださいね。
参考文献
- 1. 日本整形外科学会. 成長期スポーツ障害に対する投球制限に関するガイドライン(2020年)
- 2. 鈴木良平 他. 小児スポーツ障害と成長軟骨. 日本小児整形外科学会誌, 2008.
- 3. Osbahr DC, et al. The throwing shoulder: biomechanics, pathophysiology, and clinical evaluation. J Am Acad Orthop Surg. 2002.
- 4. Kida Y, et al. Ultrasonographic findings in Little League baseball players with elbow pain. J Shoulder Elbow Surg. 2013.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)