「指のしびれや力の入りにくさが続く…これは何?」
- 親指、人差し指、中指、薬指がしびれる
- 朝起きたときに手がしびれていることが多い
- 細かい動作がしづらくなり、ボタンを留めるのが難しい
- 手のひらの親指の付け根あたりがやせてきた気がする
このような症状がある場合、手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)の可能性があります。
手根管症候群は進行すると、手の力が入りにくくなり、親指の筋肉がやせ細ることもあるため、早めの診断と治療が大切です。
手根管症候群とは?
手根管症候群とは、手首の「手根管」というトンネルの中を通る正中神経が圧迫されることで、手指のしびれや痛み、筋力低下が起こる病気です。
手根管は、手首の骨と靱帯で囲まれた狭い空間であり、この中を正中神経と指を動かす腱(屈筋腱)が通っています。
手根管の上部には横手根管靱帯が走行しているのですが、この靭帯が炎症などで肥厚し分厚くなると正中神経が圧迫されてしまい手根管症候群が生じます。

なぜ手根管症候群が起こるのか?
1. 手や指の使いすぎによる腱や靭帯の炎症
- デスクワークやタイピングの多い仕事
- 料理・掃除・裁縫などの家事
- ピアノ・ギターなどの楽器演奏
特に、手首をよく使う動作を繰り返す人は、手根管内の腱が炎症を起こしやすく、神経が圧迫されやすくなります。
2. ホルモンの影響(妊娠・更年期・甲状腺疾患)
- 妊娠中・産後・更年期の女性に多い
- 甲状腺機能低下症がある人
女性ホルモンの変化により、体内の水分バランスが変わることで、手根管の内圧が上昇し、神経が圧迫されやすくなることがあります。
特に、妊娠中や更年期の女性に手根管症候群が多いのは、このホルモンの影響が関係していると考えられています。
3. 糖尿病や関節リウマチ、透析を行っている方
糖尿病では、血糖値が高い状態が続くことで神経がダメージを受けやすくなります。
また、関節リウマチがあると関節の炎症によって手根管内の組織が腫れ、神経を圧迫しやすくなります。
手根管症候群の症状
- 親指。人差し指、中指、薬指のしびれや痛み
- 細かい動作がしづらくなる(ボタンを留める、箸を使うのが難しい)
- 親指の付け根の筋肉がやせ細る(母指球萎縮)
痺れの範囲は親指から薬指の半分(親指側のみ)が痺れるのが特徴です。症状が進んでくると、握力が低下したり、母指球という親指の付け根の筋肉が痩せてきます。
症状が進行すると、手の力が入りにくくなり、コップを落としたり、ファスナーを上げるのが難しくなったりします。


手根管症候群の治療
1. 保存療法(手術をしない治療)
手根管症候群の症状が軽度の場合、まず保存療法から始めます。手関節への負担をかけないような生活習慣を心掛けます。
神経症状が見られる場合は炎症を抑えるために、消炎鎮痛剤やビタミン剤(特にB12やE)が処方されます。これにより、痛みを軽減させ末梢神経の補修が期待できます。
2. 手術療法(重症例)
保存療法では改善が見られない場合や、症状が進行して手の機能に支障をきたす場合には、手術が検討されます。
専門医からの一言


手根管症候群は、放置すると手のしびれや握力低下が進行し、日常生活の中で細かい動作が困難になることがあります。
特に、進行すると親指の付け根の筋肉がやせ細り、力が入りにくくなるため、早めに適切な治療を受けることが重要です。
「しびれくらいなら大丈夫」と思っているうちに、症状が悪化してしまうこともあるため、手に違和感を感じたら、早めに医師に相談しましょう。適切なリハビリや治療を続けることで、症状の改善が期待できますよ。
参考文献
- Omole AE, Awosika A, Khan A, et al. An Integrated Review of Carpal Tunnel Syndrome: New Insights to an Old Problem. Cureus. 2023;15(6):e40145.
- American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS). Management of Carpal Tunnel Syndrome: Clinical Practice Guideline. AAOS.
- Padua L, Coraci D, Erra C, et al. Carpal tunnel syndrome: clinical features, diagnosis, and management. Lancet Neurol.2016;15(12):1273–1284.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)