「親指を動かすと痛む…これは何?」
- ものを持つときに親指の付け根が痛む
- タオルを絞る、フライパンを持つなどの動作がつらい
このような症状がある場合、ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)の可能性があります。
特に、スマホの長時間使用や、赤ちゃんを抱っこする動作、家事やパソコン作業で手を酷使する人に多く発症します。
放置すると症状が悪化し、手を使うたびに痛みを感じるようになり、日常生活に支障をきたすこともあるため、早めの治療が大切です。
ドケルバン病とは?
手の甲側には、指や手首を伸ばすための「伸筋腱」がいくつも走っています。
これらの腱は、手首周辺の骨の上を通る際に「伸筋支帯」と呼ばれる丈夫なバンドの下を通過します。
この支帯は腱を押さえる“トンネル”のような役割を果たし、腱が浮き上がったりずれたりしないようにしています。

ドケルバン病とは、手首の親指側にある2本の腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)と、それを包む腱鞘が炎症を起こし、痛みや腫れが生じる疾患です。
本来、腱と腱鞘はスムーズに滑ることで指や手首の動きをサポートしていますが、過度な使用や繰り返しの動作によって腱鞘が炎症を起こすと、腱の滑りが悪くなり、痛みや引っかかる感じが出てくるのです。

- 初期は、手首の親指側に軽い痛みを感じる程度
- 進行すると、手を使うたびに痛みが増し、腫れや熱感が出る
- 悪化すると、親指を動かせなくなり、手を使うのが困難になる
このように、症状が進行すると、手の機能が大きく制限されるため、早めの対処が重要です。
なぜドゥケルバン腱鞘炎が起こるのか?
1. 指や手首の使いすぎ
- スマホの長時間使用(親指での操作が多い)
- 赤ちゃんを抱っこする動作の繰り返し
- パソコン作業やデスクワーク
特に、スマートフォンを頻繁に使う人は、親指を過剰に動かすため、腱鞘炎になりやすい傾向があります。
また、赤ちゃんを抱っこする際に、親指と手首に負担がかかる動作が続くと、産後の女性に発症しやすくなることが知られています。
2.ホルモンバランスの変化
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは関節や腱を守る重要なホルモンと言われています。
エストロゲンの働きには以下のようなものがあります。
- 滑膜(関節の内側を覆う膜)の炎症を抑える:関節内には「滑膜」という組織があり、ここで関節液を分泌して関節の動きを滑らかに保っています。エストロゲンは滑膜の炎症を抑える作用があり、関節や腱の腫れや痛みを予防しています。
- 軟骨を保護し、関節軟骨がすり減るのを防ぐ:エストロゲンは関節の軟骨細胞を守り、軟骨のすり減りを抑える働きがあります。
- コラーゲンや骨密度の維持:関節周囲の靭帯や軟骨の主成分であるコラーゲンの生成を助け、骨の代謝で重要な破骨細胞の作用を抑えることで骨密度を維持する働きもあります。
女性ホルモンの変化により、腱周囲の滑膜が炎症を起こしやすくなるため、妊娠・産後や更年期の女性に多く見られます。また妊娠・産後は鉄分不足のせいで腱組織の状態不良を起こし腱が損傷しやすくなることも言われています。
3. 手の形や生活習慣
もともと手の関節が柔らかい人や、手をよく使う職業の人は、負担が蓄積しやすく、ドケルバン病を発症しやすい傾向があります。
ドケルバン病の症状
- 親指の付け根から手首にかけて痛みがある
- 物を握ると痛みが走る(タオルを絞る、ペットボトルを開けるなど)
- 手首の親指側が腫れ、押すと痛みがある
- 痛みが悪化すると、親指を動かすのが困難になる
特に、手を使う動作で痛みが悪化するのが特徴で、進行すると手を休めても痛みが続くことがあります。
ドケルバン病の検査
1. 画像検査
骨折や変形を除外する目的でレントゲンを確認します。
超音波で手首の親指側にある2本の腱と、それを包む腱鞘に炎症があるかどうかを確認します。
2. 身体診察
どこが痛いか、どのようにすると痛みが出るかを確認します。
フィンケルシュタインテストというドケルバン病に特有の徒手検査を行い疼痛の誘発を確認します。
ドケルバン病の治療
1. 保存療法(手術をしない場合)
痛みが強い場合は、まず炎症を抑えるために消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用します。
飲み薬だけでなく、湿布や塗り薬を併用することで、局所的に炎症を抑えることができます。
また、エストロゲンと同じような作用を持つエクオールを使用することで疼痛を軽減したり発症の予防が期待できます。
強い炎症がある場合には、腱鞘内にステロイド注射を行うこともあります。注射を行うことで即効的に炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
しかしステロイドの注射は腱そのものに注射すると腱自体の変性や損傷を引き起こすという報告があり、繰り返し使用することはお勧めできません。
そのため、当院ではむやみやたらに注射をしません。超音波を用いて患者さん一人一人の状態をしっかり確認し、最も必要な部位に必要なタイミングで的確に注射することを心がけています!
人によっては注射による疼痛軽減が見られることも多く、頻回の注射を希望される場合もあります。その場合はプロロセラピーという方法を選択します。この治療法では、1~2週間ごとに注射を行い、腱を損傷させることなく治療を継続することが可能です。施術時には若干の疼痛を伴いますが、組織の修復を促し、長期的な改善を目指します。
2. 手首や肘を安静にし、負担を減らす
炎症を起こしている間は、なるべく手を使う動作を減らし、患部の負担を軽減することが重要です。
- サポーターを装着し、手関節への負荷を分散させる
- 仕事やスポーツの負担を調整し、痛みがある動作を避ける
- 重いものを持つときは、手首をなるべく使わないようにする
注射やお薬に抵抗がある方は、日常生活の中でいかに負担をかけないようにするかが重要です。
3. 手術療法(重症例)
保存療法で改善しない場合や、症状が進行して手を使えなくなった場合には、腱鞘切開手術を行い、腱の通り道を広げることで、スムーズに指を動かせるようにします。
専門医からの一言


ドゥケルバン腱鞘炎は、初期の段階で適切な治療をすれば悪化を防ぐことができます。
「少し痛いけど、我慢すれば大丈夫」と放置していると、炎症が悪化し、手を使うたびに痛みを感じるようになることがあります。
重いものを持ったり細かい作業をしたりと手をよく使う仕事や趣味がある方、特に産後の方はホルモンバランス・栄養状態・赤ちゃんを抱っこするなど発症の要因が多い状態です。
疼痛が出現した場合には無理をせず、早めに医師に相談することが大切です。
参考文献
- Challoumas D, Ramasubbu R, Rooney E, Seymour-Jackson E, Putti A, Millar NL. Management of de Quervain Tenosynovitis: A Systematic Review and Network Meta-analysis. JAMA Netw Open.2023;6(10):
- Huang P, Hong C-I, Liang C-C, et al. De Quervain Tenosynovitis as a Risk Factor of New-Onset Adhesive Capsulitis: A Nationwide Cohort Study. Healthcare.2023;11(12):1758
- Alam M, Haider F, Mohamed AMA, Alawainati M. The Use of Platelet-Rich Plasma in De Quervain’s Tenosynovitis: A Systematic Review. Cureus. 2024;16(10):e71027.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)