子どもが股関節を痛がる――それ、見過ごしてはいけないかもしれません

「股関節が痛いと急に足を引きずるようになった…それって何?」

小さなお子さんが「足が痛い」「歩きたくない」と突然言い出したり、びっこを引くような歩き方になったとき、親御さんとしてはとても心配になると思います。

こうした小児の股関節痛の多くは「単純性股関節炎」と呼ばれる病気で、比較的軽症で自然に治るケースが多いです。

ただし、なかには放っておくと関節破壊にまでつながる「化膿性股関節炎」という重篤な病気が隠れていることもあるため、注意が必要です。

「よくあるもの」と「早期に見抜くべきもの」の見分けがとても大切になる疾患です。

単純性股関節炎とは?

ウイルス感染などがきっかけとなって、一時的に股関節に軽い炎症が起こる病気です。2歳~10歳頃の小児に多く、風邪のあとや発熱後などに股関節の痛みを訴えることがよくあります。

超音波で股関節を確認すると関節の中に水腫が確認されることもあります。

  • 一過性の炎症で、数日〜1週間ほどで自然に軽快することが多い
  • 股関節を動かしたがらないが、発熱や全身状態は比較的良好

関節液を分析すると、白血球の増加や細菌の存在が見られないことが多く、ウイルスや免疫反応に関係していると考えられています。

化膿性股関節炎とは?

こちらは細菌が関節内に感染して強い炎症を引き起こす、非常に危険な病気です。

単純性股関節炎と同じように股関節痛を主訴としますが、症状が強く、進行が早く、関節破壊を引き起こす可能性があるため、緊急の治療が必要です。

  • 高熱(38℃以上)がみられる
  • 強い痛みで歩けない・動かせない
  • 股関節を少しでも動かそうとするだけで激しく嫌がる
  • 関節が腫れて赤く熱を持つことがある

乳児や小児で見逃されると関節の変形や機能障害が残ることもあり、早期診断と治療が極めて重要です。

関節液を穿刺し感染が疑われた場合は緊急的な処置が必要となります。

なぜ起こるの?

単純性股関節炎は、ウイルス感染後の免疫反応の一環として一時的に股関節に炎症が起きると考えられています。原因となるウイルスには、風邪、インフルエンザ、RSウイルスなどが含まれます。

化膿性股関節炎は、血流にのって細菌が関節内に運ばれたり、外傷や手術をきっかけに感染が広がったりして発症します。原因菌としては、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌が多いです。

症状の違い

比較項目 単純性股関節炎 化膿性股関節炎
発熱 軽度 or なし 高熱(38℃以上)
痛み 軽度〜中等度 強い・動かせない
全身状態 良好 悪化しやすい
関節の腫れ 目立たない 明らかに腫れる
経過 自然軽快することが多い 急速に進行し、関節破壊のリスクあり

どんな検査をするの?

1. 身体診察

歩行の様子や関節の動き、痛みの場所を丁寧に診察します。

2. 画像検査

レントゲンで骨の変形がないかを確認し、超音波(エコー)で関節液の貯留をチェックします。

※必要があればMRIで炎症の広がりを確認することもありますが子供の場合はMRIの検査自体が困難(検査中じっとできない)なことが多く、必要な時のみ検討します。その場合は薬で眠ってもらう必要があり小児科など専門の科がある医療施設に紹介させていただきます。

3. 血液検査

CRP(炎症の程度)、白血球数、赤沈(ESR)などを確認し、細菌感染の可能性があるかを調べます。

※あまりに小さなお子さんの場合、採血検査が困難であることも多いです。緊急的に採血が必要な状態であれば感染を疑い、小児科など専門の科がある医療施設に紹介させていただきます。


4. 関節液の穿刺・検査

超音波で関節内に水腫が確認された場合は、関節内にたまった液を採取し、細菌の有無や炎症細胞の数を調べます。化膿性股関節炎ではこの検査が診断の決め手となることがあります。

どうやって治すの?

単純性股関節炎の場合

基本的には安静で経過を見ることで改善します。無理をせず、痛みが治まるまで運動を避けましょう。安静でも痛みが強い場合は痛み止め(アセトアミノフェンなど)で症状を和らげます。

通常は1週間ほどで軽快することが多いですが、症状が続く場合は再度診察が必要です。

化膿性股関節炎の場合

基本的に化膿性股関節炎と診断された場合、入院管理が必要です。抗生剤の点滴加療で症状がよくなることもありますが、診察時の状態や採血の結果次第では緊急手術を行い関節内の膿を出す手術が必要なこともあります。

症状が少しでも悪くならないように緊急的な対応が必要な病気です。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

お子さんが突然「足が痛い」「歩けない」と言い出すと、本当に驚かれると思います。

その多くは単純性股関節炎のように、自然と良くなる軽い炎症であることが多いのですが、ごくまれに化膿性股関節炎のような重大な病気が隠れていることがあります。

見た目は似ていても、対処が大きく異なるため、早めの受診・適切な検査がとても大切です。

参考文献

  • 日本小児整形外科学会. 小児の股関節疾患.
  • Kaneyama S, et al. Differentiating septic arthritis of the hip from transient synovitis in children. J Pediatr Orthop. 2019.
  • Kocher MS, et al. Validation of a clinical prediction rule for the differentiation between septic arthritis and transient synovitis of the hip. J Bone Joint Surg Am. 2004.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)