腸脛靭帯炎とは?—「膝の外側がズキッと痛む…」それ、ランナーに多い“膝の使いすぎ”かもしれません

「走った後に膝の外側が痛い…」それ、ただの筋肉痛じゃないかもしれません

  • ランニング中や走った後に膝の外側がズキッと痛む
  • 自転車をこいだり、階段を下るときに膝の外側が痛くなる
  • 走る距離が長くなると痛みが強くなる
  • 安静にすると痛みは引くが、再び運動すると痛む
  • 膝の外側を押すとピンポイントに痛みがある

このような症状がある方は、腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)の可能性があります。特にマラソンや長距離ランニングをする人に多く、「ランナー膝」とも呼ばれる代表的なスポーツ障害です。

腸脛靭帯炎とは?

腸脛靭帯炎は、太ももの外側にある「腸脛靭帯」と、膝の外側にある骨(大腿骨外側顆:がいそくか)がこすれて炎症を起こす疾患です。

腸脛靭帯は、骨盤から膝の外側まで走っている強い繊維性の組織で、ランニングや自転車などの反復動作によって、膝の曲げ伸ばしのたびに摩擦が起こり、炎症と痛みを引き起こします。

なぜ起こるの?(原因)

腸脛靭帯炎は、使いすぎによる障害として知られています。以下のような条件が揃うと、腸脛靭帯が過度に刺激されて炎症を起こしやすくなります。

主な原因

  • 長距離ランニングや自転車走行による膝の繰り返しの曲げ伸ばし
  • 硬い路面や傾斜のある道での走行
  • O脚や足のアライメント異常(骨格のずれ)
  • 筋力バランスの不均衡(特に臀部や大腿の筋肉)
  • 靴が合っていない、クッション性が低いシューズ

とくに、走るフォームが悪い人、急に運動量を増やした人に多く見られます。

どんな症状が出るの?

  • 膝の外側(やや上の部分)に鋭い痛みが出る
  • 特に走り始めや、長く走った後に痛みが強くなる
  • 階段を下りるときや、しゃがんだり立ち上がるときに痛むこともある
  • 押すと痛むポイントがはっきりしている
  • 休むと楽になるが、運動するとすぐに再発する

症状が強くなると、歩くだけでも痛みが出るようになることがあります。

腸脛靭帯炎の検査

1. 身体診察

膝のどの部位に痛みがるのか、どういう動きをすると痛みが出るのかを評価します。
腸脛靭帯の緊張や柔軟性も合わせて確認します。

2. 画像検査

レントゲン検査で骨の変形や膝関節のバランスを確認します。レントゲンでは腸脛靭帯炎の診断はできませんが、他の疾患の除外に有用です。

超音波を使うことで腸脛靭帯の炎症や周囲の滑液包の腫れを確認できます。

腸脛靭帯炎の治療

基本的には保存療法で改善します。腸脛靭帯炎の治療では、まずお薬や注射によって炎症や痛みを緩和することが基本となります。

痛み止め(飲み薬や湿布)で痛みを抑えるほか、症状が長引く場合には腸脛靭帯付近へのステロイドなどの局所注射も効果的です。

炎症が強い時期は、痛みを引き起こす運動を避け、安静を心がけます。運動後や痛みが強いときには、膝の外側を10~15分冷やすアイシングが炎症の軽減に役立ちます。

再発予防のためには、腸脛靭帯の柔軟性を高めるストレッチや、股関節・体幹の筋力バランスを整えるリハビリが重要です。特に、中臀筋や体幹の筋力強化は膝の安定性向上にもつながります。

さらに、足のアライメントに問題がある場合には、シューズの見直しやインソールの使用によって膝への負担を減らすことができます。炎症を抑えながら、原因に応じたアプローチを丁寧に行うことが治療のポイントです。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

腸脛靭帯炎は、若いアスリートやジョギング愛好家の方によく見られる膝の障害です。

「走ると外側が痛いけど、少し休めば大丈夫だろう」と思って計画もなく放置すると、悪化して慢性化することもあります。

初期であれば、運動量の調整やストレッチ、筋力のバランスを見直すことで十分に改善できます。

当院では、超音波検査を用いて腸脛靭帯の状態を確認し、運動指導や必要に応じた注射治療を行っています。

運動を続けながら治すためのサポートも行っていますので、「膝の外側が痛む」と感じたら早めにご相談くださいね。

参考文献

  • 日本整形外科学会. スポーツ障害の診療指針(腸脛靭帯炎)2020
  • Beals C, Flanigan D. A Review of Treatments for Iliotibial Band Syndrome in the Athletic Population. J Sports Med (Hindawi Publ Corp). 2013;2013:367169.
  • Fairclough J, et al. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee. J Anat. 2006.
  • Charles D, Rodgers C. A Literature Review and Clinical Commentary on the Development of Iliotibial Band Syndrome in Runners. Int J Sports Phys Ther. 2020;15(3):460–470.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)