「腰が痛くて足もしびれる…これは何?」
- 腰の痛みがなかなか引かない
- お尻や太もも、ふくらはぎにかけてしびれや痛みがある
- 長時間座っていると腰が痛くなり、立ち上がるときに辛い
- 前かがみになると症状が悪化する
- 足に力が入りにくく、つまずきやすい
このような症状がある場合、腰椎椎間板ヘルニア(ようついついかんばんヘルニア)の可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアは、背骨のクッションである「椎間板」が飛び出し、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。
発症初期は「単なる腰痛」と思われることもありますが、進行すると足のしびれや筋力低下を伴うことがあり、重症化すると歩行障害につながることもあるため、早めの治療が重要です。
腰椎椎間板ヘルニアとは?
私たちの背骨(脊椎)は、「椎骨」と呼ばれる小さな骨が積み重なり、その間に「椎間板」と呼ばれるクッションのような組織が存在することで、スムーズに動くことができます。

しかし、この椎間板が何らかの原因で傷んでしまい、中の「髄核(ずいかく)」が飛び出してしまうと、近くにある神経を圧迫し、痛みやしびれが出ることがあります。
腰椎椎間板ヘルニアは、特に20〜50代の働き盛りの世代に多く、重い物を持つ仕事や長時間のデスクワーク、スポーツなどが影響するとされています。

なぜ腰椎椎間板ヘルニアが起こるのか?
1. 椎間板の老化(加齢による変性)
- 椎間板は加齢とともに水分が減り、弾力性が低下する
椎間板は加齢(30代頃から)とともに痛みやすくなり、その結果弾力性を失ってしまうことで、外部からの圧力に耐えられず、髄核が飛び出しやすくなります。
2. 強い負荷や姿勢の悪さ
- 重いものを持ち上げた瞬間に腰に激痛が走った
- 長時間の座り仕事や前かがみの姿勢が多い
不自然な姿勢が続くと、椎間板に過度な圧力がかかり、髄核が飛び出しやすくなります。デスクワークの増加により、「座りすぎ」も椎間板ヘルニアの大きな原因の一つとされています。
3. 繰り返される負担や運動不足
- スポーツや肉体労働で腰に負担をかけ続けている
- 逆に運動不足で筋力が低下し、腰を支える力が弱くなっている
体幹の筋肉(腹筋・背筋)が弱いと、腰への負担が増加し、ヘルニアのリスクが高まります。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
- 腰の痛み(特に前かがみになると悪化する)
- お尻や太もも、ふくらはぎにかけてしびれがある
- 足に力が入りにくく、歩きにくい
初期の段階では「ぎっくり腰」や「単なる腰痛」と思われるような腰痛が見られることが多いです。実はこの腰痛は椎間板が圧迫されたことで髄核が椎間板から飛び出した(この状態をヘルニアと言います)時に起こる痛みなんです。
このヘルニアが神経を圧迫することで腰痛から1週間ほど経過したタイミングで足のしびれや筋力低下を起こす可能性があります。
腰椎椎間板ヘルニアの検査
1. 画像検査(レントゲン・MRI)
- レントゲン(X線):骨の変形や狭窄がないかを確認
- MRI:椎間板や神経の状態を詳しく調べ、ヘルニアや神経障害の有無を確認(必要に応じて)
2. 身体診察(徒手検査)
筋力低下や痛みの部位、神経痛の程度などを評価します。
腰椎椎間板ヘルニアの治療
1. 保存療法
- 約70〜80%のヘルニアは時間経過とともに自然に縮小し、症状が改善します
- 炎症が落ち着くことで、数ヶ月〜1年で回復が期待できます
腰椎椎間板ヘルニアの多くは、手術をせずに改善が期待できます。これは、体が自然にヘルニアを縮小・吸収し、神経への影響が減るためです。
「ヘルニア」と聞くと、「一度出てしまったら治らないのでは?」と不安になる方も多いですが、実は約70〜80%のヘルニアは時間経過とともに自然に縮小し、症状が改善することが分かっています。
特に、ヘルニアが神経の外側に飛び出している場合(脱出型ヘルニア)では、マクロファージによる自然吸収が起こりやすいとされています。
炎症の鎮静化、椎間板の水分減少、神経の適応などが組み合わさることで、数ヶ月〜1年程度で症状が改善します。
腰椎椎間板ヘルニアでは、神経の炎症を抑えることが治療のポイントです。消炎鎮痛剤や神経の興奮を抑える薬などを調節したり、痛みが強い場合には神経ブロック注射を組み合わせることで症状を和らげることができます。
2. リハビリ・運動療法
- 腰の負担を減らすためのストレッチや体幹トレーニングを行います
- 適度な運動で血流を促し、回復を早めます
腰椎椎間板ヘルニアの予防や再発防止には、リハビリが重要です。
ストレッチや筋力トレーニングを行うことで、腰にかかる負担を軽減し、再発を防ぐことができます。
3. 手術療法(保存療法で改善しない場合)
- 保存加療で改善しない場合
- 麻痺、膀胱直腸障害が出現した場合
お薬や注射を継続しても痛みの改善が見られない場合や、足の麻痺が出現した場合、膀胱直腸障害が出現下場合は手術加療の検討が必要です。
時に麻痺や膀胱直腸障害といって排尿や排便のコントロールがうまくできなくなる状態になると緊急手術が必要になることもあります。
専門医からの一言


腰椎椎間板ヘルニアは、ほとんどの場合、適切な治療と時間の経過によって自然に改善します。実際に、ヘルニアが小さくなったり、症状が軽減するケースは70〜80%にのぼると報告されています。
ただし、「放っておいても大丈夫」とは言い切れません。ヘルニアのサイズが大きく、強く神経を圧迫している場合や、足の力が入りにくくなっている、長時間歩けない、排尿や排便の異常があるといった症状が出ている場合は、早急な対応が必要です。
また初期症状に腰痛のみというケースも少なくありません。「ただの腰痛」と思わず、気になる症状があれば専門医に相談しましょう!
参考文献
- Chou R, Qaseem A, Snow V, et al. Diagnosis and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline from the American College of Physicians and the American Pain Society. Ann Intern Med. 2007;147(7):478–491.
- Vroomen PC, de Krom MC, Knottnerus JA. Predicting the outcome of sciatica at short-term follow-up. Br J Gen Pract. 2002;52(475):119–123.
- Peul WC, van Houwelingen HC, van den Hout WB, et al. Surgery versus prolonged conservative treatment for sciatica. N Engl J Med. 2007;356(22):2245–2256.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)