「肘の内側が痛い…これは何?」
- 物を握ると肘の内側が痛む
- タオルを絞るときに肘がズキッと痛む
- ゴルフや野球のスイングで痛みが走る
- 長時間ペンを持ったり、パソコン作業をすると肘が疲れる
このような症状がある場合、上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん)の可能性があります。特にゴルフをしている人に多く見られるため、「ゴルフ肘」とも呼ばれることがありますが、スポーツをしていなくても発症することがあります。
手をよく使う仕事や日常動作でも痛みが悪化しやすく、特に手首を繰り返し曲げる動作(キーボード入力、筆記、料理など)を続けると、症状が慢性化しやすいため、注意が必要です。
上腕骨内側上顆炎とは?
上腕骨内側上顆炎は、前腕の屈筋群(手首や指を曲げる筋肉)を繰り返し使うことで、筋肉の根元に細かい損傷が生じ、炎症を引き起こす疾患です。
特に、手首を繰り返し曲げる動作や、強い握力を必要とする作業が続くことで負担がかかり、発症しやすくなります。
症状が進行すると、肘の内側に持続的な痛みが出るようになったり、物を持つのもつらくなるほどの痛みになることもあります。放置すると治りにくくなるため、早めの対策が重要です。
なぜ上腕骨内側上顆炎が起こるのか?
1. 繰り返しの手首・指の動作
- ゴルフや野球など、スイングや投球を繰り返すスポーツ
- 料理や掃除など、手をよく使う家事
- パソコン作業やデスクワークでのタイピング・筆記
- 工具を使う仕事(大工・電気工事・整備など)
上腕骨内側上顆炎の主な原因は、手首や指を曲げる筋肉(屈筋群)に過度な負荷がかかることです。

特に、ゴルフのスイング、野球の投球動作、長時間のデスクワークなど、手を繰り返し使う作業を続けることで、腱に小さな損傷が蓄積して炎症が起こります。
2. 筋肉の疲労
- 長年の手の酷使が原因で筋肉が傷みやすくなる
- 加齢に伴い、筋肉の修復力が低下する
若い頃は問題なくできていた作業でも、加齢とともに腱の弾力が低下し、筋肉の損傷が回復しにくくなるため、発症しやすくなります。
年齢を重ねるとともに、特に激しい動作をしていなくても、日常の動作の繰り返しによって発症することがあるため、注意が必要です。
上腕骨内側上顆炎の症状
- 肘の外側が痛み、特に手首を反らせると悪化する
- 物を握る動作(ペットボトルを開ける、タオルを絞る)がつらい
- 痛みが続くと、何もしなくてもジンジン痛むことがある
- 手を休めると少し良くなるが、使うとまた痛みがぶり返す
痛みは軽度のうちは「何か違和感があるな…」という程度ですが、進行すると何気ない日常動作(コップを持つ、ドアノブを回す)でも痛みが出るようになります。
悪化すると、安静時でも痛みを感じるようになり、夜間痛が出たり、肘の外側を押しただけでも痛むようになることもあります。
上腕骨内側上顆炎の検査
1. 身体診察
- 肘のどの部位にどうすれば痛みが出るか確認する
- 圧痛の有無を調べ、神経症状や筋力低下がないかチェックする
2. 画像検査
- レントゲン:骨の変形や骨折の有無を確認
- 超音波検査:腱の損傷や炎症の評価を行う
上腕骨内側上顆炎の治療
上腕骨内側上顆炎の治療は、まず痛みを軽減し、炎症を抑えることを最優先とし、その後、筋肉や腱の回復を促すリハビリを行い、再発を防ぐことが基本となります。
1. 痛みを抑える
痛みが強い場合は、まず炎症を抑えるために消炎鎮痛剤(NSAIDs)を使用します。飲み薬だけでなく、湿布や塗り薬を併用することで、局所的に炎症を抑えることができます。
夜間痛や強い炎症がある場合には、筋肉炎症が生じている部分にステロイド注射を行います注射を行うことで即効的に炎症を抑え、痛みを和らげる効果が期待できます。
しかしステロイドの注射は腱そのものに注射すると腱自体の変性や損傷を引き起こすという報告があります。腱周囲に注射をすることになり、繰り返し使用することはお勧めできません。
そのため当院ではむやみやたらに注射をしません。超音波を用いて患者さん一人一人の状態をしっかり確認し、最も必要な部位に必要なタイミングで的確に注射することを心がけています!
人によっては注射による疼痛軽減が見られることも多く、頻回の注射を希望される場合もあります。その場合はプロロセラピーという方法を選択します。
この治療法では、1~2週間ごとに注射を行い、腱を損傷させることなく治療を継続することが可能です。施術時には若干の疼痛を伴いますが、組織の修復を促し、長期的な改善を目指します。
痛みが特に強い急性期には、肩を冷やして炎症を抑えるのが有効です。アイスパックや冷湿布を使用することで、局所の腫れや炎症を和らげることができます。ただし、炎症が落ち着いた後は、逆に温めることで血流を促進し、回復を早めることが推奨されます。
2. 手首や肘を安静にし、負担を減らす
炎症を起こしている間は、なるべく手を使う動作を減らし、患部の負担を軽減することが重要です。
- サポーターを装着し、肘への負荷を分散させる
- 仕事やスポーツの負担を調整し、痛みがある動作を避ける
- 重いものを持つときは、手首をなるべく使わないようにする
注射やお薬に抵抗がある方は、日常生活の中でいかに負担をかけないようにするかが重要です。
3. リハビリ・ストレッチ(回復と再発予防)
痛みが落ち着いてきたら、肘周りの筋肉を柔らかくし、再発を防ぐためのストレッチを行います。特に、手首を下に下げる筋肉(屈筋群)の柔軟性を高めることが重要です。
- 手首ストレッチ:手のひらを上にして、反対の手でゆっくり手首を曲げる
- 前腕マッサージ:肘から手首にかけての筋肉をほぐす
これらを継続することで、肘への負担を減らし、再発を防ぐことができます。
専門医からの一言


上腕骨内側上顆炎は、放置すると慢性化し、治るまでに長期間かかることがあります。無理してを我慢して無理を続けると、かえって治りにくくなってしまうことがあります。
適切なケアとリハビリを続けることで、痛みを軽減し、再発を防ぐことができます。「少しおかしいな」と思った今が、体を労わるチャンスです。
私たちは、あなたの手や肘がまた自然に動かせるように、一緒に向き合いながら治療を進めていきます。一歩ずつ、焦らずに、一緒に治していきましょう。
参考文献
- DeLuca MK, Cage E, Stokey PJ, Ebraheim NA. Medial epicondylitis: Current diagnosis and treatment options. J Orthop Rep. 2023;3(3):100449.
- Kiel J, Kaiser K. Medial Epicondylitis. In: StatPearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023.
- Bartosz K, Pawel S, Michal K, et al. Current concepts of natural course and in management of medial epicondylitis: A clinical overview. Orthop Rev (Pavia). 2023;15(1):84275.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)