「あしの付け根が痛い…これは何?」
- 歩くと股関節(脚の付け根)がズキズキ痛む
- 股関節が動かしにくく、靴下を履きにくくなってきた
- 最近、正座やあぐらがしづらい
- 痛みのせいで外出するのが楽しくない
こうした症状に心当たりがある方は、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)かもしれません。
股関節にかかる負担が長期間にわたって続くと、軟骨がすり減り、骨同士がぶつかることで痛みや動きの制限が出てくる病気です。
特に女性に多く見られ、40代以降に症状が出始め、年齢とともに進行することが多いのが特徴です。
変形性股関節症とは?
関節には、骨と骨の間でクッションの役割を果たす「軟骨」が存在し、スムーズに動くようになっています。

しかし、長年の使用や加齢によって軟骨がすり減ると、関節の表面が傷つき、炎症が起こります。
この炎症が続くと、関節内にある滑膜という膜が腫れたり、トゲのような骨の変形(骨棘)ができたりして、関節の変形が進行していきます。関節の大きさによってはたくさんの関節水腫が溜まることもあります。

股関節は、骨盤側の「寛骨臼(かんこつきゅう)」と太ももの骨である「大腿骨頭(だいたいこっとう)」でつくられる関節です。
関節の表面には関節軟骨というクッションのような部分があり、軟骨があるおかげで骨同士がぶつかるのを防いでいます。

しかし、長年にわたって体重を支えているため、股関節には相当な負担がかかっています。この軟骨が徐々にすり減ってしまい、関節が変形し、痛みや動きの制限が起こるのです。
この軟骨がすり減った結果関節が変形することを「変形性股関節症」といいます。変形が進行すると、軟骨がなくなり、骨同士が直接ぶつかるようになり、痛みがさらに強くなります。

なぜ起こるのか?
原因は大きく分けて「1次性」と「2次性」に分類されます。
1次性(原因が特定できない)
加齢や長年の生活習慣によって徐々に軟骨がすり減っていくタイプです。体重、姿勢、筋力低下なども関係します。
2次性(明確な原因がある)
日本では、先天性股関節脱臼(乳児期に脱臼が起きたまま成長)や寛骨臼形成不全(股関節のはまりが浅い)が多く、こうした先天的な股関節自体の異常があり、軟骨がすり減ってしまうことがあります。
大腿骨頭壊死や外傷(骨折・脱臼など)が原因になることもあります。
大腿骨頭壊死
大腿骨頭壊死とは、「大腿骨頭」という部分の血流が悪くなり、骨の一部が壊れてしまう病気です。血流が途絶えることで骨が弱くなり、つぶれて変形し、股関節の痛みや動かしにくさが出てきます。
原因がわからない場合もありますが、ステロイド薬やお酒の多量摂取が関係していると言われています。
外傷(骨折や股関節脱臼)による変形
股関節の外傷(骨折や脱臼など)によって、関節の軟骨や骨にダメージが加わると、関節の形が不整になったり、関節内のバランスが崩れたりします。
さらに骨折や脱臼により大腿骨頭への血流障害が起こると大腿骨頭壊死を起こすこともあります。
こうした要因が積み重なることで、時間とともに軟骨がすり減り、関節の変形が進行し、結果として変形性股関節症へと移行することがあります。
どんな症状が出るの?
- 股関節や太もも、膝にかけての痛み(特に歩行時・立ち上がり時)
- 関節の動きが悪くなり、靴下を履く・正座をするのが困難
- 痛みが慢性化して、日常生活の動きが制限される
- 進行すると安静時にも痛みが出る
初期は「疲れたときだけ痛む」程度でも、徐々に進行すると「歩くだけで痛い」「寝ていてもズキズキする」といった症状に変わっていきます。
変形性股関節症の検査
1. 身体診察
痛みの場所、どう動かすと痛みが出現するかなどを確認します。
2. 画像検査
関節の隙間(軟骨の厚み)や骨の変形、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)などを確認します。進行度もこのレントゲンで評価できます。
レントゲンでは明らかな変形がみられないにも関わらず痛みが改善しない場合はMRI検査を検討します。軟骨や滑膜の炎症、大腿骨頭壊死の有無など、より詳しい状態を評価できます。
変形性股関節症の治療
保存療法(手術をせずに治療)
進行度にもよりますが、まずは保存療法から始めるのが一般的です。進行が軽い変形性股関節症であれば、多くの方がこの方法で症状の軽減が期待できます。
薬物療法
痛みが強い場合は、痛み止めの内服や外用薬(湿布など)を使って痛みを抑えることもあります。痛みがひどい場合は股関節へ直接注射(ヒアルロン酸やステロイドなど)を行うこともあります。
ただし股関節は深い位置にあるため、超音波(エコー)を用いて正確な位置に注射する必要があります。
運動療法(リハビリ)
股関節を安定させるために、中殿筋や大腿四頭筋などの筋力をつけることが重要です。
適切なストレッチや体幹トレーニングも行います。また、関節可動域の維持を目的にしたリハビリも併用します。
体重コントロール
股関節には体重の3から4倍の負荷がかかるため、減量によって関節への負担が大幅に減り、痛みが軽減されることもあります。
疼痛があまりに強い場合は歩行も困難で運動療法ができず体重増加を起こしてしまうことも少なくありません。疼痛が軽いうちから積極的に運動をして体重コントロールを行うのが重要です。
インソールや杖の使用
軟骨がすり減ると、その厚みの分だけ関節の隙間が狭くなってしまいます。その結果、変形が進んだ側の足が短くなることがあります。
足の長さに差が生じると、歩行が不安定になったり、もう一方の足に過度な負担がかかったりすることがあります。
症状が進行すると、変形のない側の膝にまで負担がかかり、その膝の軟骨もすり減りやすくなってしまうこともあります。
こうした足の長さの差がある場合には、必要に応じて足底板(インソール)や杖などの補助具を使用することで、股関節や膝、腰などへの負担を和らげ、痛みを軽減させることが可能です。
手術療法(保存療法で効果が乏しい場合)
保存療法で十分な効果が得られない場合には手術が検討されます。大きく分けて以下の2つの術式があります。
人工股関節置換術
最も一般的な手術です。変形した股関節を取り除き、人工の関節に置き換えることで、痛みの消失と可動域の改善が見込まれます。
術後のリハビリも重要で、適切に進めれば日常生活への復帰も可能になります。
骨切り術(若年者に多い)
股関節への負担がかかる部分を変えるために、骨の角度を調整する手術です。軟骨が残っている比較的若い方が適応です。
手術を行うタイミング
手術を行うタイミングは、
- 「痛みが強くて日常生活が困難になってきた」
- 「歩くのが辛くて交友関係が少なくなった」
- 「外に出かける気力も無くなってきた」
など、個人差はありますがご本人が「本当に必要」と感じた時が最も適した時期と考えます。
ただし、人工関節はあくまでも人工物であるため、長年の使用によって壊れることがあります。現在では技術の進歩により、20〜30年ほどの耐久性があるとされていますが、それでも摩耗や破損が起これば再手術が必要になります。
この再手術のリスクをできるだけ減らすためには、初回の人工関節置換術の時期を少しでも遅らせることです。
たとえば、関節軟骨がまだある程度残っている比較的若い方の場合には、「骨切り術」という方法を選択することで、人工関節置換術に至るまでの時間を延ばすことができます。
中には、骨切り術だけで十分な効果が得られ、人工関節手術を行わずに済むケースも少なくありません。
年齢的に人工関節が適応とされる方であっても、手術までの期間をできるだけ延ばすために、生活習慣を見直して、関節への負担を減らすことがとても重要です。
体重管理や筋力強化、適切な運動などを通じて、関節の変形や痛みの進行をゆるやかにし、できるだけ長くご自身の関節で生活できるように心がけましょう。
専門医からの一言


変形性股関節症は、早い段階での対策がとても大切な病気です。軟骨はすり減ってしまうと元に戻ることはありませんが、症状を和らげたり、進行をゆっくりにしたりすることは十分に可能です。
「最近ちょっと歩きにくくなった」「脚の付け根が痛むようになった」と感じたら、それが最初のサインかもしれません。
放っておくと少しずつ進行してしまうため、早めに相談いただければ、保存療法でしっかり改善できる、手術までの時間を少しでも伸ばすチャンスが広がります。
当院では、現在の変形の状態をしっかり把握し、必要に合わせて超音波を用いた関節内注射を行います。
さらに一人ひとりの状態に合わせたリハビリや生活指導を丁寧に行い、自分の足で笑顔で元気に生活するサポートをします。
手術が必要かどうかも含め、まずは気軽にご相談ください。無理のない方法で、一緒に今後の健康な足腰を考えていきましょう。
参考文献
- 田中良和, 高橋昭, 佐所忠義ほか. 変形性関節症の発症メカニズムと治療:股関節と膝関節の比較. Clinical Calcium. 2022;32(4):537–544.
- Gossec L, Hawker G, Davis AM, et al. Osteoarthritis of the hip: diagnosis and treatment. Osteoarthritis Cartilage. 2020;28(2):141–151.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)