「子どもの背中が曲がっている気がする…これは何?」
- 背骨が左右に曲がっているように見える
- 肩の高さが左右で違う
- 腰のくびれの形が左右で違って見える
- 背中の片側が盛り上がって見える
このような症状が見られる場合、小児側弯症(しょうにそくわんしょう)の可能性があります。特に、10歳前後の成長期に症状が目立ってくることが多く、進行すると背骨の変形が強くなり、将来的に腰痛や呼吸障害を引き起こすこともあります。
側弯症の多くは、原因がはっきりしない「特発性側弯症」と呼ばれるもので、早期に発見し、適切な対応を行うことで進行を防ぐことができます。
成長期に急激に悪化することがあるため、「姿勢が悪いだけ」と放置せずに、気になったら早めに受診しましょう。
小児側弯症とは?
背骨がS字やC字に曲がる病気
通常、背骨はまっすぐに伸びていますが、背骨が左右に曲がり、場合によってはねじれを伴うことがあり、この状態を側彎症と言います。
側彎症には、背骨の曲がり具合が軽度のものから重度のものまでさまざまです。軽度であれば経過観察で問題ないこともありますが、進行すると背中や腰に負担がかかり、背骨がどんどん曲がり体のバランスが崩れてしまいます。
特に思春期の成長期(10〜15歳)に発症しやすく、女の子に多いのが特徴です。 早期に発見し、進行を防ぐための治療やリハビリを行うことで、重度の変形を防ぐことができます。
なぜ小児側弯症が起こるのか?
1. 特発性側弯症(原因不明の側弯症)
小児側弯症の約80%は、はっきりとした原因はわかっておらず、これを特発性側弯症といいます。特発性側弯症は、特に10〜15歳の成長期の子どもに多く、遺伝的な要因が影響していると考えられています。
「姿勢が悪いから側弯症になる」と思われがちですが、姿勢が原因で発症するものではなく、成長とともに自然に発症することが多いため、早めの発見が重要です。
2. 先天性側弯症(生まれつきの背骨の異常)
次に生まれつき背骨の形成に異常があるものを先天性側弯症と言います。先天性側弯症は赤ちゃんのときから背骨の一部がうまく発達しないことで起こる側弯症です。
成長とともに進行しやすいため、早い段階で診断を受け、治療方針を決めることが大切です。
小児側弯症の症状
- 背骨が左右に曲がっている
- 肩の高さが違う、服がずれる
- 後ろから見ると、腰のくびれが左右非対称になっている
- 前屈すると、片側の肩甲骨が盛り上がって見える
- 重度になると、腰痛や呼吸のしにくさ、食後の胃もたれ感などが出ることもある
初期のうちは、本人に自覚症状がほとんどなく、親が気づいたり学校での検診で指摘され発見されることが多いです。
成長期に急激に進行することがあるため、定期的に背骨の状態をチェックすることが大切です。
小児側弯症の検査
1. 画像検査(レントゲン)
背骨全体のレントゲンを撮影し、背骨のカーブの角度(コブ角)を測定します。
2. 身体診察(徒手検査)
- 前かがみになったときに、片側の肩甲骨が盛り上がっているか
- 肩や骨盤の高さに左右差が生じるかどうか
- 腰痛や神経症状が出現していないか
などを確認します。



小児側弯症の治療
側弯症の治療は、脊骨の曲がり具合の程度や成長期の進行具合によって方法が異なります。早期発見と適切な治療を行うことで、進行を抑えることが可能です。
ここでは、症状の程度に応じた治療方法を詳しく解説します。
1. 経過観察(軽度の場合:コブ角20度未満)
軽度の側弯症(コブ角が20度未満)の場合、まずは3〜6ヶ月程度の間隔で定期的に経過観察を行い、進行を防ぐための生活習慣を整えます。
経過観察のポイント
- 3〜6ヶ月ごとに定期的にレントゲンを撮影し、背骨の曲がり具合が進行していないかをチェックする
- 姿勢の改善を意識し、適度な運動やストレッチを行う
- 成長期が終わるまでは定期的なフォローが必要
この段階では、特別な治療を必要としないことが多いですが、日常生活でできるだけ正しい姿勢を意識し、背骨に負担をかけないようにすることが大切です。
2. 装具療法(コブ角20〜40度の場合)
側弯のカーブが20〜40度程度に達すると、成長期に急激に進行するリスクがあるため、装具(コルセット)による治療が推奨されます。
コルセットは、背骨のカーブが進行するのを防ぐ目的で使用され、特に成長期の子どもに効果が期待できます。
コルセットはオーダーメイドで作成し曲がり具合に合わせて長さや大きさを調節します。
装具療法のポイント
- 最低でも1日18時間以上の装着が推奨される(寝ている間も含める)
- 装具を着用しながらでも運動を続けることは可能
- 定期的に装具の調整を行い、体の成長に合わせる
- 成長期が終わるまでは装具の着用は継続する必要がある
この段階(40度)以上に側湾が進行すると手術加療が必要になることが増えてきます。装具療法は、完全に側弯を治すものではありませんが、側湾の進行を防ぐことで進行を遅らせたり程度を緩和させる可能性が高くなるため、辛抱して正しく使用することが重要です。
3. 手術療法(重症例:コブ角40〜50度以上)
側弯のカーブが40〜50度以上になると、将来的に呼吸機能や姿勢の悪化による慢性的な痛みが発生する可能性が出たり、整容的な面(見た目が気になってくる)で手術が検討されます。
手術は、背骨の変形を矯正し、安定させることで症状の進行を防ぐことが目的です。手術の適応は年齢や進行具合によって異なるため、専門医と十分に相談し、最適な方法を選択することが大切です。
4. 運動療法・リハビリ(1-3のいずれでも推奨)
側弯症の進行を防ぐためには、適度な運動やリハビリが有効です。
特に、体幹の筋力を鍛えることで、背骨を支える力が向上し、側弯の進行を抑える効果が期待できます。体幹トレーニング(プランク・スクワットなど)で背骨を支える筋肉を強化したり、ヨガやピラティスなどで柔軟性を高め、左右のバランスを整えることも有効です。
適切なリハビリを行うことで、装具療法や手術療法の補助的な役割を果たし、より良い姿勢を維持することができます。
専門医からの一言


小児側弯症は、成長とともに進行しやすいため、早期発見と適切な管理がとても重要です。
「少し背中が曲がっている気がする…」と感じたら、一度専門医に相談しましょう。特に成長期の子どもは、数ヶ月の間に急激に側弯が進行することがあるため、定期的な経過観察が大切です。
早めに診断し、適切な対応をすることで、進行を抑え、将来の健康な姿勢を保つことができます。気になることがあれば、お気軽にご相談ください!
参考文献
- 宮澤拓、斎藤雅史、吉澤慎太 他. 思春期側弯症に対する運動療法の有効性. 日本スポーツリハビリテーション学会誌, 2020; 9: 13–19.
- 加藤歩希、青栁直子. 学校における脊柱側彎症患児への支援の在り方. 茨城大学教育実践研究, 2020; 39: 163-176.
- Phillips WA. Scoliosis Management for Primary Care Practitioners. Pediatrics in Review. 2021;42(9):475–485.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)