骨を強くし、圧迫骨折を予防するための1次予防・2次予防・3次予防

骨折
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圧迫骨折の1次予防・2次予防・3次予防とは

圧迫骨折は、骨粗鬆症が原因となることが多いため、骨粗鬆症を予防し管理することが圧迫骨折の予防に直結します。

予防には1次予防・2次予防・3次予防があり、それぞれの段階で異なるアプローチが必要です。

1次予防(発症予防)―圧迫骨折を起こさせないために

1次予防とは「まだ骨折をしていない人が、骨折を予防するための対策」です。ここでは、骨密度を維持し、骨折のリスクを減らすことを目的とします。

骨折のリスクを減少させるには以下のようなことがあります。

1. バランスの良い食事で骨を丈夫に

骨を強くするためには、必要な栄養素をしっかり摂ることが重要です。

特にカルシウムは骨の主要な成分となるため、不足しないよう意識しましょう。牛乳やチーズ、小魚、大豆製品などに豊富に含まれています。これらの食品を毎日の食事に取り入れることで、骨の密度を保つことができます。

また、カルシウムを効率よく吸収するためには、ビタミンDも欠かせません。鮭やキノコ類、卵などに多く含まれており、さらに日光を浴びることで体内でも合成されます。特に高齢者は屋内で過ごす時間が長くなりがちなので、意識的に日光を浴びる習慣をつけることが重要です。

さらに、ビタミンKは骨を強くし、骨折のリスクを減らす働きがあります。納豆や緑黄色野菜を摂ることで補給できます。

加えて、骨と筋肉を維持するためには、タンパク質もしっかり摂取することが大切です。肉や魚、豆類を適度に食べることで、筋力低下を防ぎ、転倒しにくい体を作ることができます。

また、意外に見落とされがちなのが水分補給です。脱水になるとめまいやふらつきが起こりやすくなり、転倒のリスクが高まります。

特に冬場や就寝前後は水分が不足しやすいため、こまめに水やお茶を飲むよう心がけましょう。

2. 適度な運動で骨と筋肉を鍛える

骨を強く保ち、転倒を防ぐためには、適度な運動が欠かせません。日常的にウォーキングや軽いスクワットを行うことで、骨に適度な刺激を与え、骨密度の低下を防ぐことができます。

また、「かかと落とし」と呼ばれる運動は、骨に負荷をかけて強くする効果が期待できるため、簡単な運動としておすすめです。

バランス能力を向上させるためには、1分間の片足立ちやストレッチを取り入れるのも有効です。バランスが悪くなると、ちょっとした段差でも転倒しやすくなるため、ふらつきを防ぐためのトレーニングは重要です。

さらに、背筋や大腿四頭筋を鍛えることで、姿勢を改善し、骨への負担を軽減することができます。大腿四頭筋は全身で一番大きい筋肉です。これを鍛えることで効率よく全身の筋肉量を増やすことができ、基礎代謝の向上につながります。

特に高齢の方は筋力が低下しやすいため、日常生活の中で積極的に体を動かすことを意識しましょう。

3. 生活習慣を見直して骨を守る

普段の生活の中で、骨の健康を意識した行動を心がけることも大切です。

まず、喫煙や過度なアルコール摂取は控えるようにしましょう。喫煙は骨の代謝を悪化させ、骨密度を低下させることが知られています。

また、アルコールの過剰摂取はカルシウムの吸収を妨げるため、飲酒の量を見直すことも必要です。

また、骨粗鬆症のリスク因子を知ることも重要です。特に閉経後の女性や高齢の方は骨密度が低下しやすいため、早めに対策を講じる必要があります。

自分の骨の状態を把握するために、採血検査で骨の代謝に関わる細胞の状態を確認したり、定期的に骨密度検査(DEXA検査)を受けることが推奨されます。検査を受けることで、必要に応じた治療や生活改善が可能になります。

4. 転倒を防ぐ工夫をする

圧迫骨折の原因のひとつに転倒があります。骨密度をいかに向上させても転倒してしまえば骨折の可能性は急増します。

転倒を防ぐためには、まず自宅の環境を整えることが重要です。特に室内の段差を少しでも減らし、滑りにくいマットを敷痛いすることで、安全に移動できるようになります。

また、夜間にトイレへ行く際など、暗い場所での転倒を防ぐために、照明を工夫して足元がよく見えるようにすることも大切です。

さらに、手すりや歩行補助具を活用することで、転倒のリスクを減らすことができます。特に階段や玄関など、バランスを崩しやすい場所には手すりを設置し、必要に応じて杖や歩行器を使うことを検討しましょう。

また、転倒しにくい靴を選ぶことも、転倒予防には有効です。

2次予防— 圧迫骨折を早期発見し、しっかり治療するために

1次予防とは、「骨折を早期発見し、適切な治療を行うこと」です。ここでは圧迫骨折を早期に発見し、適切な治療を行うことを目的とします。

なぜ圧迫骨折の早期発見が重要なのか

骨粗鬆症が進行することで骨がもろくなり、軽微な衝撃でも圧迫骨折が起こるようになります。

特に、高齢者では転倒もしていないのに「いつの間にか骨折」として気づかないうちに発症していることも多くあります。実際、圧迫骨折を起こしたことがある人の6割がこの「いつの間にか骨折」であったという報告もあります。

また、外傷を機に疼痛が出現してもすぐに強い痛みが出るとは限らず、「少し腰が痛い」「なんとなく動きにくい」などの軽い違和感程度で様子を見ていて、結果として骨折していたということも珍しくありません。

発見が遅れ、治療が遅れると姿勢の変化が残り、生活の質(QOL)が大きく低下してしまいます。そのため、転倒した、重いものを持って腰に違和感が出るようになったなどの症状があれば、圧迫骨折の可能性を疑い、早めに整形外科を受診することを強く勧めます。

2次予防としての治療と管理

1. 適切な骨折治療を行う

圧迫骨折の治療を参考(詳しくは「圧迫骨折」をご覧ください

2. 運動療法とリハビリの実施

圧迫骨折の治療中は疼痛に合わせて適度な運動を行いましょう。コルセットをしっかり着用し疼痛が強ければ鎮痛剤を的確に使用することも大切です。

筋力の低下や姿勢の変化によって、再び骨折するリスクが高まります。適切な運動療法を取り入れることで受傷後の筋力低下を予防し、骨に刺激を与えることで骨のリモデリング(骨の再生)を促すことも期待できます。

3次予防(再発予防、機能維持)— 再骨折を予防し生活の質を維持するために

3次予防とは、「すでに圧迫骨折をしたことがある人が、再び骨折を起こさないように予防し、生活の質を維持する対策」です。

一度圧迫骨折を経験すると、再び骨折を起こすリスクが高くなります。その主な原因として、以下のような要因が挙げられます。

  • 骨粗鬆症が進行しているため:骨密度の低下が続くと、わずかな衝撃でも骨折しやすくなります。
  • 圧迫骨折による背骨の変形:骨折によって背骨が潰れると姿勢が悪化し、周囲の背骨に過度な負担がかかるため、新たな骨折が起こりやすくなります。
  • 安静による筋力低下:圧迫骨折後は痛みを避けるために動く機会が減り、背筋や脚の筋力が低下しやすくなります。その結果、バランスを崩しやすくなり、転倒のリスクが高まります。

実際に、圧迫骨折を一度起こした人は、1年以内に再び骨折する確率が約20%と報告されています。そのため、骨折を防ぐための対策を徹底し、骨の健康を維持することが非常に重要です。

骨の健康を維持するために以下のようなことに取り組みましょう。

1次予防の取り組みを継続し、転倒と骨粗鬆症の管理を徹底する

圧迫骨折の再発を防ぐためには、何より1次予防の取り組みを継続することが大切です。骨粗鬆症の進行を抑えたり転倒による骨折を予防するために食事の見直しやや転倒予防のため生活環境を整えることを継続しましょう。

骨粗鬆症の治療を強化する

骨折の再発を防ぐためには、骨粗鬆症の適切な治療を開始・継続することが必要です。薬物療法をによって骨密度の低下を防ぐことで、新たな骨折のリスクを軽減できます。

骨折後のリハビリと生活の質(QOL)を維持する

圧迫骨折の治療後も運動不足になると筋力が低下し、転倒や再骨折のリスクが高まります。痛みや姿勢の変化による活動量の減少を防ぐために、適切なリハビリを行い、日常生活の動作を無理なく続けることが重要です。

また、慢性的な痛みがある場合は、理学療法やブロック注射を活用し、痛みをコントロールしながら活動量を維持しましょう。

さらに、もともと活動的であった人などは、骨折後は気分の落ち込みや意欲低下が起こりやすいため、家族や医療スタッフと相談しながらメンタルケアを行うことも必要になることがあります。

社会復帰をサポートする環境を活用する

骨折後の回復をスムーズにするために、デイケアや訪問リハビリを利用するのも有効です。

また、地域の健康プログラムや転倒予防教室に参加することで、体力維持だけでなく、社会的なつながりを持ち続けることができます。

自立した生活を目指し、適切なサポートを活用しながら、無理のない範囲で活動を続けることが大切です。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

圧迫骨折の予防は、「発症前の対策(一次予防)」→「早期発見と適切な治療(二次予防)」→「機能回復と予防(三次予防)」という流れで考えることが重要です。

特に、すでに骨折をしたことがある人は、再発予防が最も重要な課題になります。

適切な骨粗鬆症治療と運動習慣を取り入れ、圧迫骨折を防ぎながら健康な生活を送りましょう!

参考文献

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  • 坂野 友啓, 戸川 大輔. 骨粗鬆症性椎体骨折ならびに偽関節. 脊椎脊髄ジャーナル. 2016;29(4):414–419.
    この論文では、骨粗鬆症性椎体骨折の治療と予防について述べられており、特に偽関節の予防と治療に焦点を当てています。
  • 高畑 雅彦.
椎体骨折および高齢者脊柱変形に対する手術治療に際しての骨粗鬆症治療の重要性. 関節外科 基礎と臨床. 2023;42(12):1389–1394.
    この論文では、椎体骨折や高齢者の脊柱変形に対する手術治療において、骨粗鬆症治療の重要性が述べられています。特に、手術前後の骨密度管理と薬物療法の適切な実施が強調されています。
  • Italian Society for Orthopaedics and Traumatology (SIOT).
Clinical guidelines for the prevention and treatment of osteoporosis.
Journal of Orthopaedics and Traumatology. 2017;18(Suppl 1):3–36.
  • Harvey NC, McCloskey EV, Mitchell PJ, et al.
Mind the (treatment) gap: a global perspective on current and future strategies for prevention of fragility fractures.
Osteoporosis International. 2017;28(5):1507–1529.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)

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