「指がスムーズに動かない…これは何?」
- 指を曲げたあと、伸ばすときにカクンと引っかかる
- 指を動かすときに痛みがある
- 曲げた指が勝手にロックされてしまう
このような症状がある場合、ばね指(弾発指・だんぱつし)の可能性があります。ばね指とは、指を曲げたり伸ばしたりするときにスムーズに動かず、途中で引っかかるような感じになる疾患です。
特に、指を伸ばそうとすると、バネのように「カクン」と弾かれるような動きになるのが特徴です。
「朝起きたら指がこわばっている」「動かすと痛みがある」「引っかかる感じがする」
—こんな症状が続いているなら、早めに対処することが大切です。
ばね指とは?
指をスムーズに動かすためには、「腱(けん)」と「腱鞘(けんしょう)」という組織が重要な役割を果たしています。
腱は、指を曲げたり伸ばしたりするための“ワイヤー”のようなもので、これが腱鞘という“トンネル”の中を通ることで、スムーズな動きが可能になります。
しかし、この腱鞘に炎症が起こると、腱の動きがスムーズにいかなくなり、指を動かすと引っかかるような感覚が出るのです。
症状が進行すると腫れた腱が指を曲げた際に腱鞘に引っかかり、指が伸びずロックされたような状態になります。これが「ばね指」と呼ばれる状態です。

なぜばね指が起こるのか?
1. 指の使いすぎ
- 長時間のスマホ・パソコン作業
- 料理や裁縫など、手をよく使う作業
指を頻繁に使う動作を続けることで、腱と腱鞘に摩擦が生じ、炎症を引き起こしやすくなります。
特に、指をよく使う職業の方や、細かい作業をする方に多くみられます。
2. 加齢による腱の変性
- 加齢により腱や腱鞘が硬くなり、炎症が起こりやすくなる
加齢とともに、腱や腱鞘の柔軟性が低下し、炎症を起こしやすくなります。
3.ホルモンバランスの変化
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは関節や腱を守る重要なホルモンと言われています。
エストロゲンの働きには以下のようなものがあります。
- 滑膜(関節の内側を覆う膜)の炎症を抑える:関節内には「滑膜」という組織があり、ここで関節液を分泌して関節の動きを滑らかに保っています。エストロゲンは滑膜の炎症を抑える作用があり、関節や腱の腫れや痛みを予防しています。
- 軟骨を保護し、関節軟骨がすり減るのを防ぐ:エストロゲンは関節の軟骨細胞を守り、軟骨のすり減りを抑える働きがあります。
- コラーゲンや骨密度の維持:関節周囲の靭帯や軟骨の主成分であるコラーゲンの生成を助け、骨の代謝で重要な破骨細胞の作用を抑えることで骨密度を維持する働きもあります。
女性ホルモンの変化により、腱周囲の滑膜が炎症を起こしやすくなるため、妊娠・産後や更年期の女性に多く見られます。また妊娠・産後は鉄分不足のせいで腱組織の状態不良を起こし腱が損傷しやすくなることも言われています。
ばね指の症状
- 指を動かすと引っかかる感じがある
- 指の付け根が腫れて痛む
- 症状が進行すると、指がロックされて伸びなくなる
最初は指を動かすときに違和感がある程度ですが、悪化すると指が勝手に曲がったまま伸ばせなくなり、無理に伸ばすと激痛が走ることもあります。
ばね指の検査
1. 画像検査(レントゲン)
骨折や変形があるかを確認します。
2. 身体診察
手指のどこが痛いか、どのようにすると痛みが出るか、引っかかりの程度を確認します。
ばね指の治療
1. 保存療法(手術をしない治療)
軽症の場合は、まず保存療法を試します。可能な限り指を休めることが重要です。
痛みに合わせて湿布や塗り薬を使い、炎症を抑え、疼痛が緩和すればストレッチやリハビリを行い、腱の滑りを改善させることで症状が改善します。
日常生活では、痛みが強いときは無理に指を使わず、できるだけ負担を減らすことが大切です。
2. ステロイド注射(炎症が強い場合)
症状が強い場合は、腱鞘内にステロイド注射を行い、炎症を抑えます。ただし、ステロイド注射は繰り返し行うと腱の質が悪化することがあるため、回数には注意が必要です。
そのため当院ではむやみやたらに注射をしません。超音波を用いて患者さん一人一人の状態をしっかり確認し、最も必要な部位に必要なタイミングで的確に注射することを心がけています!
人によっては注射による疼痛軽減が見られることも多く、頻回の注射を希望される場合もあります。その場合はプロロセラピーという方法を選択します。この治療法では、1~2週間ごとに注射を行い、腱を損傷させることなく治療を継続することが可能です。施術時には若干の疼痛を伴いますが、組織の修復を促し、長期的な改善を目指します。
3. 手術療法
保存療法で改善しない場合や、指が完全にロックされてしまっている場合には、腱鞘切開という手術を行います。
腱鞘を切り開くことで腱の通り道を広げることで、スムーズに指を動かせるようにします。
この手術は局所麻酔で行い、10〜15分程度で終了するため、負担が少なく、術後はすぐに指を動かせるようになります。
専門医からの一言


ばね指は、初期の段階で適切なケアを行えば、症状の悪化を防ぐことができます。
「ちょっと引っかかるけど、大丈夫かな?」と放置していると、指がロックされるようになり、最終的には手術が必要になることもあります。
特に、指の動かしにくさや痛みが続いている場合は、早めに治療を始めることが大切です。
手をよく使う仕事や趣味がある方は、日常的にストレッチを行い、指に負担をかけすぎないよう注意しましょう。
気になる症状がある場合は、「放っておけば治る」と思わずに、早めに医師に相談することをおすすめします!
参考文献
- Choi YK, Sit RWS, Wang B, et al. Clinical effectiveness of Finger gliding Exercise for patients with trigger fingers receiving steroid injection: a Randomized Clinical Trial. Sci Rep. 2025;15:5141.
- Iordache SD, Rutenberg TF, Pizem Y, et al. Traditional Physiotherapy vs. Fascial Manipulation for the Treatment of Trigger Finger: A Randomized Pilot Study. Isr Med Assoc J. 2023;25(4):286–291.
- Yildirim P, Gultekin A, Yildirim A, et al. Extracorporeal shock wave therapy versus corticosteroid injection in the treatment of trigger finger: a randomized controlled study. J Hand Surg Eur Vol. 2016;41(9):977–983.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)