「腕のしびれやだるさが続く…これは何?」
- 腕や手がしびれる、だるい感じがする
- 腕を上げると症状が悪化する
- 手を握る力が弱くなり、物を落としやすい
- 首や肩こりがひどく、肩のこわばりがある
- 寒い日や長時間同じ姿勢をとると症状が悪化する
このような症状がある場合、胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)の可能性があります。
胸郭出口症候群の症状は、姿勢や腕の使い方によって悪化したり改善したりするのが特徴です。
胸郭出口症候群とは?
胸郭出口症候群とは、首から腕に向かう神経や動脈・静脈が圧迫されることで、腕や手のしびれ、痛み、脱力感が生じる疾患です。
長時間のデスクワークやスマホ操作の後に腕がしびれる、腕を上げるような動作を長時間していると痛みや痺れで腕を持ち上げていられなくなるといった症状が出現することが多いです。
なぜ胸郭出口症候群が起こるのか?
1. なで肩や姿勢の悪さ
なで肩の人は、鎖骨が下がりやすく、神経や血管が圧迫されやすい状態にあります。この状態で猫背や前かがみの姿勢が続くと、胸郭出口が狭くなり症状が出現します。
特に女性は筋力が弱く、なで肩の人が多いため、胸郭出口症候群になりやすいとされています。
2. 筋肉の緊張や発達
首の筋肉や胸の筋肉が過度に緊張すると、神経や血管が圧迫される状態になります。ウェイトトレーニングなどで筋肉が発達している人は、胸郭出口が狭くなり症状が出現しやすくなります。
筋トレやスポーツで首や肩の筋肉が発達しすぎると、かえって神経や血管を圧迫する原因になることもあります。
3. 重い荷物を持つ仕事やスポーツ
リュックや肩掛けバッグを長時間持つ習慣や野球、バレーボール、水泳などの腕をよく使うスポーツをする人にも症状が出やすいと言われています。
動作を繰り返すことで胸郭出口に負担がかかったり、荷物を持つ時間が長いと、肩が下がり胸郭出口が狭くなってしまうため、神経や血管が圧迫されやすくなります。
胸郭出口症候群の症状
- 腕や手のしびれ、だるさ
- 肩や首のこりがひどい
- 腕を上げるとしびれが悪化する(腕を下げると楽になる)
- 手の握力が低下し、物を落としやすい
- 手の色が青白くなる、冷たく感じる(血管の圧迫による症状)
胸郭出口症候群の検査
1. 身体診察
症状の出現するタイミングや疼痛の程度や頻度を確認します。また、鎖骨の上を圧迫したときにしびれが出るかを確認したり、腕を上げた状態で手を開閉運動させ、しびれやだるさが出るかを確認するなど胸郭出口症候群に特徴的な検査を行います。
2. 画像検査
- レントゲン(XP):鎖骨や肋骨の形を確認します。
必要に合わせてMRIや超音波で血管や神経の圧迫の程度を評価します。
胸郭出口症候群の治療
1. 姿勢の改善と生活習慣の見直し
郭出口症候群の治療で最も重要なのは、日常生活の中で悪化の原因を取り除くことです。また、長時間同じ姿勢をとり続けると血流が悪くなり、症状が悪化するため、定期的にストレッチをする習慣をつけることが有効です。
2. リハビリ・ストレッチ
胸郭出口を広げるために、ストレッチやリハビリで筋肉のバランスを整えることが重要です。特に、肩甲骨を動かすエクササイズを取り入れることで、症状の改善が期待できます。適切なリハビリを続けることで、神経や血管の圧迫が緩和され、症状が徐々に軽減していきます。
3. 薬物療法(痛みが強い場合)
炎症が強い場合は、一時的に消炎鎮痛剤を使用することもあります。また、血流の悪化による症状がある場合は、血流改善薬が処方されることもあります。
4. 注射治療(症状が強い場合)
ストレッチや薬だけでは改善しない場合、超音波ガイド下で神経ブロック注射を行い、神経の圧迫を和らげることができます。これにより、一時的に症状を軽減しながらリハビリを進めることが可能です。
専門医からの一言


胸郭出口症候群は、日常生活の中で悪化しやすい疾患ですが、姿勢を意識し、リハビリを継続することで改善することが多いです。
特にデスクワークが多い人や、スマホを長時間使う人は、日常的にストレッチを取り入れ、こまめに肩を動かすことを意識することが予防のカギになります。
また、胸郭出口症候群は放置すると慢性化しやすく、長期間にわたって症状が続くこともあるため、早めの対処が重要です。
リハビリを始めるとすぐに効果が出るわけではありませんが、根気よく続けることで徐々に症状が軽減していくケースが多いです。
「しびれが出ても気にしない」「そのうち治るだろう」と放置せず、適切な治療を受けることで、日常生活の快適さを取り戻しましょう。
参考文献
- Camporese G, Bernardi E, Venturin A, et al. Diagnostic and therapeutic management of the thoracic outlet syndrome: Review of the literature and report of an Italian experience. Front Cardiovasc Med. 2022;9:802183.
- Illig KA, Donahue DM, Duncan A, et al. Thoracic Outlet Syndrome: A Comprehensive Review of Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment. Pain Ther. 2019;8(1):5–18.
- Demondion X, Herbinet P, Van Sint Jan S, et al. Imaging assessment of thoracic outlet syndrome. Radiographics.2006;26(6):1735–1750.
この記事の監修者について
学歴・経歴
- 金沢医科大学 医学部卒業
- 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
- 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
- 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開
資格・専門領域
- 医学博士
- 日本整形外科学会認定専門医
- 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
- 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力
診療に対する想い
患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。 科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。 「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。
趣味・活動
- バレーボール歴20年以上
- ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)