外傷性頚部症候群(むち打ち症)とは?—交通事故や転倒後の首の痛み

「事故の後から首が痛い…これってむち打ち?」

  • 交通事故や転倒の後から首が痛む
  • 首を動かすと強い痛みが出る
  • 肩や背中にまで痛みが広がる
  • 頭痛やめまい、しびれが出ることがある
  • 事故直後は何ともなかったが、翌日から痛みが出てきた

このような症状がある場合、外傷性頚部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)、いわゆる「むち打ち」の可能性があります。

むち打ちは、交通事故や転倒、スポーツでの衝撃によって首が急激に前後に振られることで、筋肉や靭帯、神経が損傷する状態を指します。

事故直後は痛みを感じなくても、数時間から数日後に痛みや違和感が現れることが多いため、注意が必要です。

なぜむち打ち症が起こるのか?(原因)

むち打ち症は、頚椎(首の骨)やその周囲の筋肉・靭帯が、急激な衝撃によって損傷を受けることで発生します。

特に、後方からの追突事故や急ブレーキによる衝撃が原因となることが多いですが、転倒やスポーツによる衝撃でも起こることがあります。

首は通常、前後左右に適度な可動域を持っていますが、想定外の急激な動きに対しては防御機能が働きにくいため、衝撃が直接筋肉や靭帯に加わりやすいのです。

その結果、首の周囲に炎症が起こり、痛みや違和感が続くことになります。

むち打ち症(外傷性頚部症候群)の分類

むち打ち症(外傷性頚部症候群)は、受傷した組織や症状の現れ方によっていくつかのタイプに分かれます。

1. 頚椎捻挫型(最も多いタイプ)

  • 首の痛みとこわばりが強い
  • 首を動かすと痛みが悪化する
  • 肩や背中にかけての筋肉の張りや違和感

頚椎を支える筋肉や靭帯が損傷し、炎症が起こることで痛みが生じるタイプで、むち打ち症の中で最も一般的です。

レントゲン(XP)では異常が見られないことが多く、筋肉や靭帯の損傷が主な原因となります。

2. 神経根症状型(神経が圧迫されるタイプ)

  • 腕や手にしびれや感覚異常がある
  • 首の動きによって症状が悪化する

衝撃によって神経根(首から腕へ向かう神経)が圧迫され、痛みやしびれが生じるタイプです。

MRI検査で神経の圧迫が確認できることがあります。

3.自律神経の異常が関与する頚部痛以外の症状

  • 頭痛、めまい、耳鳴りがある
  • 倦怠感や吐き気、集中力の低下を感じる
  • 首の痛みよりも全身の不調が目立つ

自律神経が影響を受けることで、血流が悪化し、頭痛やめまい、倦怠感などの症状が現れるタイプです。

頚椎の過度なストレスが交感神経に影響を与え、不調が長引くことがあります。また事故による精神的なストレスも要因の一つです。

4. 脊髄症状型(神経症状の重症度が高い)

  • 手足のしびれや麻痺、強い疼痛がある
  • 歩行が不安定になる
  • 膀胱直腸障害(排尿・排便の異常)が起こることもある

脊髄自体が圧迫されると、手足のしびれや筋力低下などの神経症状が現れることがあります。

このタイプは緊急性が高いため、すぐに医療機関での検査が必要です。

外傷性頚部症候群(むち打ち症)の検査

むち打ち症は、事故や外傷の既往と症状をもとに診断します。また、他の頚椎疾患との鑑別のため、以下の検査を行うことがあります。

1. 身体診察

  • 首の可動域を確認し、痛みが出る動きをチェック
  • 圧痛の有無を調べ、炎症の部位を特定
  • 神経症状(しびれや感覚異常)の有無を評価

2. 画像検査(レントゲン・MRI)

  • レントゲン:頚椎の変形(骨棘という骨の変形やストレートネックなど)がないか確認します。
    ※レントゲンでは異常が見られないことも多いですが、症状が強い場合や長引く場合はMRIを行い、脊髄周辺に異常がないかを確認します。

外傷性頚部症候群(むち打ち症)の治療

1. 安静と負担の軽減

むち打ち症の初期には、できるだけ首の負担を減らし、安静を保つことが大切です。

首を無理に動かすと、損傷した筋肉や靭帯の炎症が悪化し、痛みが長引く原因になります。安静にしながら、炎症が落ち着いたタイミングで適切なリハビリを開始することが、早期回復につながります。

2. 鎮痛剤や湿布の使用

痛みが強い場合には、消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服が有効です。
これにより、炎症を抑え、痛みを軽減することができます。

また、局所的な痛みには、湿布や塗り薬を使用することで炎症を抑え、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。

急性期には冷湿布を使って炎症を抑え、慢性期に入ったら温湿布に切り替えて血流を促進すると、より効果的です。

3. 温熱療法とリハビリ

むち打ち症の急性期(発症直後)は、首の炎症が強いため、まずは冷やして炎症を抑えるべきです。一方で、痛みが落ち着いてきたら、温めて血流を促進することが大切になります。ホットタオルや入浴で首を温めると、筋肉のこわばりがほぐれ、可動域の回復を助けます。

また、温熱療法を行った後にストレッチや軽い運動を取り入れることで、首や肩の柔軟性を向上させ、再発を防ぐことができます。

ただし、痛みが強い状態で無理に動かすと、かえって症状が悪化することがあるため、ストレッチや運動は、痛みが軽減してから開始するようにしましょう。

また、首の筋肉を鍛えることで、むち打ち症の再発予防につながります。首周りの筋力が低下すると、ちょっとした負荷で再び痛みが出やすくなるため、リハビリの一環として軽い筋力トレーニングを行うことが有効です。

ただし、自己流で無理に負荷をかけるのは避け、専門家の指導のもとで適切な運動を行いましょう。

専門医からの一言


ササモト整形外科 副院長佐々本 丈嗣

むち打ち症は、事故や転倒の直後には症状が出にくく、数日後に痛みや違和感が現れることが多い疾患です。

「事故直後は大丈夫だった」と思っていても、時間が経つにつれて痛みが強くなったり、頭痛やめまいが現れることがあるため、慎重な対応が必要です。

多くの場合は適切な治療で改善しますが、放置すると慢性化し、長期間にわたって首の痛みや不調が続くことがあります。

また、しびれや神経症状が出ている場合は、頚椎の損傷が関与している可能性があるため、早めの医療機関受診をおすすめします。

事故後の首の痛みや違和感は、「そのうち治るだろう」と軽視せず、早めの診察と適切な治療を受けることが大切です。

痛みを最小限に抑え、日常生活への影響を減らすためにも、適切なケアを行いながら、回復をサポートしていきましょう。

参考文献

  • Matsumoto M, Fujimura Y, Suzuki N, et al. Pathology and Treatment of Traumatic Cervical Spine Syndrome. Adv Orthop. 2018;2018:4765050.
  • Sterling M, Kenardy J, Ju Y, et al. Developmental Trajectories of Pain and Disability Following Whiplash Injury. Pain.2018;159(1):92–98.
  • Haagsma JA, Graetz N, Bolliger I, et al. The Global Burden of Injury: Incidence, Prevalence, Disability, and Mortality. PLoS One. 2016;11(1):e0146979.

この記事の監修者について

ササモト整形外科 副院長
ささもと佐々本
たけし丈嗣

学歴・経歴

  • 金沢医科大学 医学部卒業
  • 金沢医科大学大学院 医学研究科(運動機能形態学専攻)修了、医学博士号取得
  • 大学病院で運動器疾患・最先端の手術技術を学びながら、穴水総合病院、氷見市民病院など北陸地方で地域医療に従事
  • 2025年より兵庫県高砂市にて地域に根差した医療を目指し、整形外科診療を展開

資格・専門領域

  • 医学博士
  • 日本整形外科学会認定専門医
  • 日本スポーツ協会公認スポーツドクター
  • 超音波を用いた診療、肩・膝関節疾患、脊椎疾患、骨粗鬆症、地域医療に注力

診療に対する想い

患者さん一人ひとりの声に真摯に耳を傾け、丁寧な診察とわかりやすい説明を心がけています。
科学的根拠に基づいた最適な医療を提供しながら、心の通った温かいサポートを大切にしています。
「みんなの笑顔をつなぐ医療」を実現するため、地域の皆さまに寄り添い、これからも日々努力を重ねてまいります。

趣味・活動

  • バレーボール歴20年以上
  • ランニング、マラソン挑戦中(神戸マラソン2025年出場予定)